研究実績の概要 |
本研究では真菌類の持つ多様な代謝能に着目し、そのうち抗蟻活性が多く報告されているテルペン類を生産・代謝可能な遺伝子の機能を利用して、新規な抗蟻性テルペンを発見することを目標としている。 本研究ではセスキテルペンを生産可能なセスキテルペン合成酵素(STS)とこれを代謝可能なシトクロームP450(CYP)の遺伝子を酵母に組み込みライブラリ化したものをもちいて、テルペンを合成・代謝させ、これにより得られたテルペンの抗蟻性を評価する。 今年度の取り組みでは7種の糸状菌から得た86種のSTS遺伝子を組み込んだライブラリを用いて、これらの中よりセスキテルペン生産能の高い11クローン(AbSTS-07, AvSTS-01, LnSTS-20, PcSTS-03, PcSTS-08, PcSTS-03, PoSTS-06, PoSTS-11, PoSTS-16, PpSTS-14, TvSTS-12)を選抜し、これらについて、テルペン生産及び生産されたテルペンを用いた防蟻性能試験(JIS K 1571)を行った。 その結果、対照として用いた抗蟻性が知られているフェルギノールでは無処理に対する食害率が7.1%まで低下した(食害阻害率は92.9%)。これに対し、残念ながら今回用いたクローンでは、最も食害量が少なかったものが、α‐ビサボレンを生産するPcSTS-08の食害率75.2%(食害阻害率は24.8%)であり、無処理に対して食害阻害率50%以上の防蟻性能を示すクローンは見出だせなかった。また、死虫率、虫体重量変化からも、今回用いたクローンの産物には、食害阻害活性、殺蟻性のいずれの活性もないことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今回用いた11クローンの防蟻性能試験はそれぞれ試数が1であることから、今後はまず実験の再現性評価のため繰り返し試験を行う。併せて、今年度用いたもの以外のテルペン生産能の高いSTSクローンからのテルペン生産と、これを用いた防蟻性能試験を行う予定である。その後、STSで生産したテルペンをCYPで代謝させることができるSTS-CYP組み換え酵母を用いて、セスキテルペンを部分的に代謝させたものを生産し、防蟻性能試験を行う。これにより防蟻性能を付加または強化できる可能性がある。 さらに、これまでに防蟻性能が報告されているフェルギノール1)は酸化が進むことで、より殺蟻性の高い6,7-dehydroroyleanoneやシロアリ摂食阻害活性および抗菌活性の強い14-deoxycoleon Uなどに変性するとされている2)。幸いにも当研究室では別の研究テーマにおいてフェルギノール精製物を多量に得ることができていることから、この精製フェルギノールをはじめとするいくつかのテルペン類をCYPのみを組み込んだライブラリを用いて代謝させ、抗蟻(殺蟻)活性の強化または付与を試みたい。 本研究の遂行にはイエシロアリ虫体の確保が重要であるが、これまで設定していた試験区のいくつかが、台風や防砂林整備のため使用が困難な状態になっている。今後は新たなイエシロアリの営巣地の探索や、これまでに見つけたイエシロアリのコロニーの活性維持に努め、研究遂行に支障が出ないよう心掛けたい。 1)狩野仁美ほか. (2004) 木材学会誌 50:91-98. 2)Kusumoto, N.ほか. (2009) Journal of chemical ecology, 35, 635-642.
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