研究課題/領域番号 |
22K05791
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
松本 有記雄 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (60700408)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ほふく粘液 / アワビ種苗生産 / ナマコ種苗生産 / 着底・変態 |
研究実績の概要 |
アワビ類やナマコ類の浮遊幼生を飼育板に着底させ、底生生活に移行(変態)させる工程は種苗生産のボトルネックとなっている。本研究では、アワビ類やナマコ類の浮遊幼生が、微細藻類などの分泌粘液などで構成されるバイオフィルムの上に好んで着底することに着目した。すなわち、バイオフィルムを模した人工粘液を作成し、それを用いた種苗生産技術を開発することを目的とした。
昨年度、アワビ類のために試作した人工粘液(λカラギーナンを海水に溶かしたもの)を用いて、チズナマコの幼生の着底・変態を誘引できるかを検討した。この人工粘液をガラスシャーレ上に塗布し、チズナマコの浮遊幼生の着底と変態を観察した。実験開始6時間後には、管足でシャーレ上に付着する様子が観察されたが、時間が経過するとともに再び遊泳を開始し、変態がほとんど観察されなかった。他方、人工粘液とジブロモメタンを併用した実験区においては、24時間後の変態率が平均40%であった。ジブロモメタンはウニ類の変態を誘引する物質であるが、本種においても変態を誘引する可能性が示唆された。人工粘液とジブロモメタンが、ミミガイの着底・変態に与える影響も検討した。その結果、実験開始後168時間後に平均40%の変態率が観察された。他方、ジブロモメタン単独区や人工粘液単独区では変態率が10%前後であった。
人工粘液とジブロモメタンの併用がアワビ類とナマコ類の着底・変態を誘引する可能性が示されたが、実用化のためには適切な使用タイミングや飼育水温を検討する必要がある。特にミミガイにおいては実験開始から168時間後まで変態が観察されなかった。このことは、実験開始時に幼生がまだ変態する能力を有していない可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の所属が変更となったため、フィリピン国で実験に供していたミミガイとハネジナマコの幼生を手に入れることが困難となった。そこで、年度の途中から研究対象種を日本国内で手に入りやすいチズナマコとクロアワビに切り替えることにした。幼生を得るための親の飼育から開始したため、実験に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始当初は東南アジアの種苗生産対象種であるミミガイとハネジナマコを用いた実験を計画していたが、日本国内で手に入るエゾアワビやクロアワビ、チズナマコを対象に技術開発をすることとした。断片的な結果であるが、人工粘液とジブロモメタンの組み合わせはアワビ類とナマコ類全般の着底・変態を誘引する可能性があることから、国内種での技術開発を進め、国外種に展開していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の所属が変更となり国外出張が困難となったため、次年度使用額が生じた。前所属で飼育してきた親アワビ・ナマコや飼育機材を手放したため、繰越金を使用して購入を進める。
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