研究課題/領域番号 |
22K05797
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
吉野 健児 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (40380290)
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研究分担者 |
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (10554470)
山田 勝雅 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 准教授 (80569195)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水銀 / 食物網 |
研究実績の概要 |
現在の水俣湾では対策事業などによって水銀レベルは低下したが、底泥などに吸着した状態で依然として他の海域に比べ高いレベルで残存しており、暫定基準以下であるものの、高い水銀値の種もみられる。安定同位体分析を利用した食物網構造解析の結果からも表層で繁茂する浮遊性植物プランクトンではなく、そうした高い水銀濃度の底泥に曝露される底生性の微細藻類を起点として、それを餌とするベントス、さらにそれらを餌とする魚類という食物連鎖が卓越しており、魚類への高い水銀移行をもたらしていると示唆される。人への水銀の主要な暴露源が魚食であるため、本研究では現在の底生微細藻類から植物プランクトンを中心とする食物網構造に改変することで魚類の水銀レベルを低下させ、人への水銀暴露を軽減できないか検討することが目的である。そのため本研究では4シーズンでの表層植物プランクトンおよび底生微細藻類現存量の変動とそれらの利用度合いに応じたベントスの総水銀濃度の変動について安定同位体分析・水銀濃度分析による評価を試みている。22年度は研究の発端となる水俣湾の食物網構造と主要水銀移行経路についての論文を執筆し、調査では予定通り7月、10月、1月に植物プランクトンや底生微細藻類、ベントスの採取を開始、採集試料の総水銀分析を行った。植物プランクトン現存量は基本的に底生微細藻類現存量よりも多いが、季節による豊凶が激しく、梅雨明けの出水の影響や秋季の鉛直混合で回復した栄養塩に対する応答と考えらえる7月と1月に多かった。底生微細藻類は植物プランクトン現存量の2割程度に過ぎなかったが、季節的には安定していた。7月は悪天候のため、分析用の底生藻類試料を得ることができなかったが、10月と1月に採集した藻類試料については予想とは違い、高い水銀に曝露されているはずの底生微細藻類試料の方が表層植物プランクトンよりも水銀濃度が低い傾向にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
底生微細藻類の水銀分析のためには高い水銀濃度を含む底泥から微細藻類を高純度で分離する必要があり、走光性を利用した手法で採取しているが、10月、1月分の試料はそれほど純度が高くなかった。植物プランクトン試料についても採水試料の懸濁物全体(POM)を分析しており、純粋な植物プランクトン以外に動物プランクトンなども混在するため、底生微細藻類試料の方が表層植物プランクトンよりも水銀濃度が低いのかどうかより精緻に研究する必要がある。ベントスの総水銀分析については試料の準備を進めている段階で十分進んでおらず23年度に持ち越しとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度は研究の動機付けとなる論文は現在も査読中で受理まで推進するほか、調査も計画通り、4月、7月、10月、1月の4シーズンにおいて、測器による水質、採水や採泥にいおる植物プランクトン、底生微細藻類試料の現存量調査やベントス採集を継続する。試料純度を向上させるため、植物プランクトンではネットによるサイズ分画を行った試料を分析に供し、底生微細藻類については走光性実験時に泥粒子などのコンタミをなるべく軽減できるよう工夫して採取する。遅れているベントスの水銀分析をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析の遅れ等により一部消耗品費が必要にならなかったため、来年度の消耗品費と合わせて使用する
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