研究課題/領域番号 |
22K05817
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
永井 宏史 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50291026)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 刺胞動物 / クラゲ / 毒素 / 生理活性物質 / 構造決定 / ラン藻 |
研究実績の概要 |
クラゲ、イソギンチャク、サンゴなどに代表される刺胞動物(約1万種)のすべてが、相手に毒液を注射して「攻撃」するための「刺胞」という極めて特殊な器官を持つ。刺胞の内部には「攻撃」に直接・間接に関与する毒素を中心とした化合物群が貯め込まれている。また、「刺胞」内の各種化合物は刺胞外から能動的に輸送されたものであることも判明している。つまり、「刺胞」内には「化学攻撃」に特化して選び抜かれた化合物群が局在すると考えられる。本研究では、低分子化合物からタンパク質まで広範囲におよぶ「刺胞」内の構成成分を網羅的に精査し、各々について化学的性状を明らかにすることを第一の目標としている。この試みは、刺胞動物が保有する「化学攻撃」に関わる多くの機能性分子を解明することにより、複雑に化合物が絡み合った「化学攻撃」の仕組みを理解しようというものである。有毒生物がもつ様々な物質の関係性を明らかにできる可能性もある。有毒刺胞動物としてハブクラゲならびにヒクラゲを対象として、これらが持つ刺胞内容物について低分子化合物からタンパク質毒素を含む高分子化合物まで広い対象について、毒素ならびに生理活性を有する化合物群の単離と構造決定を行っていく。また、有毒な生物として一部の海産ラン藻が知られている。我々はすでに沖縄産の有毒ラン藻が大量発生した際に採集したラン藻試料を保有している。今までに複数のアプリシアトキシン類縁体を含む有毒成分を単離・構造決定してきた。継続した研究の中でいまだ未知の多数の有毒成分が本ラン藻内に存在することが示されている。そこで、本ラン藻を対象として未知の有毒成分、生理活性物質の単離を行っている最中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハブクラゲの刺胞の単離法はすでに当研究室で確立している。そこでハブクラゲと同じく立方クラゲ綱に属するヒクラゲについても刺胞の単離法の確立を試みた。ヒクラゲの刺胞はハブクラゲと外観が異なることや、刺胞同士がくっつきやすい性質を持つことなどを見出した。最終的にヒクラゲの刺胞についても単離法の確立に成功した。単離したヒクラゲ刺胞から毒液を含む刺胞内液を取り出す方法の検討を行った。その結果、ミニビーズ・ビーターを使用した抽出法がもっとも簡便かつ最適であることが判明した。1モル水酸化ナトリウム溶液による処理でも刺胞が効率よく発射することも見出したが、本法はタンパク質毒素が失活してしまうため実際には利用できないが、顕微鏡で発射の様子を確認するのに最適であることがわかった。この方法はハブクラゲ刺胞にも利用できた。今回、ヒクラゲから刺胞内液について活性を保持した状態で抽出できるようになった。現在その抽出液についてHPLCを含む各種クロマトグラフィーを行い、刺胞内に含まれているさまざまな化合物についてHPLCを用いて単離している。沖縄産のラン藻については、以前の顕微鏡下での形態学的特徴からMoorea producensとしてきた。しかし当研究室において遺伝子を用いたラン藻分類が可能となったため、遺伝子解析により系統分類を行ったところ、本ラン藻はOkeania hirsutaと再同定された。O. hirsutaの特徴としてlyngbic acidやmalyngamide類を生産することが報告されているが、この点でも一致した。本年度はこのO. hirsutaサンプルから新規化合物である7-epi-30-methyloscillatoxin Dを単離・構造決定することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、ヒクラゲ刺胞から効率的に活性を保持した状態で抽出液を得ることに成功した。今後はこの抽出液についてHPLCを含む各種クロマトグラフィーを行い、刺胞内に含まれているさまざまな低分子から高分子にわたる生理活性物質を単離していく予定である。また単離した低分子化合物についてはMS、NMRなど分光学的手法を利用してその構造を決定していく。タンパク質毒素など高分子についてはLC-MS/MSやエドマン分解をはじめとした分析手法により部分アミノ酸配列を明らかにし、そのアミノ酸配列情報に基づいて遺伝子解析を行う。それによりタンパク質をコードしている全塩基配列の決定ならびに演繹アミノ酸一次配列の解析を行っていく予定である。沖縄で採取したラン藻Okeania hirsutaについては引き続き低分子化合物の単離を行っていく。このO. hirsutaからは各種アプリシアトキシンの誘導体が今まで得られているため、アプリシアトキシン関連化合物を中心に調べていく予定である。HPLCによって毒素が単離された場合にはMS、NMRなど分光学的手法を用いてそれらの構造を解析する。さらに各種バイオアッセイ法を利用してその毒性を評価する予定である。
|