研究課題/領域番号 |
22K05827
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
大久保 誠 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (60381092)
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研究分担者 |
谷口 成紀 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (10549942)
前田 俊道 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 教授 (20399653)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 筋肉 / コイ / プロテアーゼ / MBSP / 全ゲノム |
研究実績の概要 |
魚類筋肉から発見された新規セリンプロテアーゼである筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(Myofibril-bound serine protease, MBSP)の発現解析を行うため、コイの全ゲノム解析を行い、3種のMBSP遺伝子(MBSP1、MBSP2、MBSP3)を同定した。さらに、コイ筋肉及び肝膵臓からcDNAライブラリを調製し、MBSP、トリプシン及びトリプシン様遺伝子のcDNAをクローニングした。RT-PCRの結果、MBSP1、MBSP2、トリプシン及びトリプシン様遺伝子は全て筋肉で発現しており、肝膵臓ではMBSP1、トリプシン及びトリプシン様遺伝子が発現していることが判明した。MBSP3はいずれの組織でも発現していなかった。 昨年度に引き続き、コイ筋肉からMBSP2のcDNAをクローニングした。その結果、MBSP1に比べ、MBSP2遺伝子の発現は低く、また大多数の個体においてmRNAが開始コドンまで転写されていないことが判明した。 MBSP1及びMBSP2の推定一次構造をトリプシンと比較した結果、分子内にMBSP特有の配列が存在することが判明した。また、成熟型MBSPのN末端アミノ酸の直前はグルタミン酸であり、トリプシンのリジンとは異なっていたことから、MBSP1及びMBSP2は、筋肉で発現した後、例えばコイ筋肉中のアミノペプチダーゼによる加水分解等、トリプシンとは異なるプロセスによって活性化すると推定された。以上の結果から、MBSP遺伝子が消化酵素のトリプシン遺伝子から分岐した後、特有の性質及び機能を持つように進化したと推定された。 コイの飼育実験を継続し、産卵準備期から産卵期を経て産卵後期に至るまで、継続的にコイの筋肉を採取し、cDNAを合成した。これらのサンプルを用いて、MBSP1及びMBSP2遺伝子のリアルタイムPCR及び免疫組織化学による発現解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MBSP2のcDNAクローニングにおいて、研究の遅れが生じている。 MBSPは発現量が低い酵素であるが、MBSP2遺伝子はMBSP1と比べてさらに発現量が低く、かつMBSP1遺伝子と相同性が高いため、cDNA断片のPCR増幅が困難であった。また、5'RACE PCRの結果から、cDNAクローニングに用いたコイ13個体のうち11個体で、MBSP2のmRNAが開始コドンまで転写されていないことが判明した。 リアルタイムPCRによる発現解析を正しく行うためには、MBSP1及びMBSP2を区別できるPCR用プライマーを設計しなければなない。そのためには、MBSP2のcDNAの全塩基配列を決定し、さらにMBSP2遺伝子が機能遺伝子であるか否かを確認する必要がある。 そこで、コイ筋肉から全ゲノムを抽出し、MBSP2遺伝子のORFからプロモーター領域にかけて遺伝子断片をPCR増幅し、シークエンスを決定した。その結果、国際DNAデータベースで公開されているコイ全ゲノム情報のうち、MBSP2遺伝子近傍の塩基配列に誤りが無いことを確認した。従って、MBSP2遺伝子は機能遺伝子であると推定された。次に、cDNAの5'UTRに相当する領域に、開始コドンに向かって複数のフォワードプライマーを設計し、既知のORF領域に設計したリバースプライマーを用いたcDNA断片のPCR増幅を試みた。その結果、スクリーニングに用いた13個体のうち2個体で、MBSP2のcDNA断片のうち、開始コドンを含む領域がPCR増幅できた。 これらの実験を遂行するために令和5年度の前半期を要したため、以後の発現解析を含む研究全体の進捗が停滞した。 一方、令和5年12月から令和6年3月の期間は、学内の書類作成や実習の補講等の業務が、例年に無く多く発生し、同期間中は本課題の研究にほとんど着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
MBSP2のcDNAは開始コドンを含む領域までPCR増幅できたので、令和6年度早期にcDNAのシークエンスを決定する。続いて、MBSP1及びMBSP2を区別できるプライマーを設計する。また、コイの全ゲノム解析により、オートファジーのマーカー遺伝子も同定している。 コイの飼育実験により、成長期及び同時期に飢餓状態となった個体から筋肉のサンプリングは完了し、既にリアルタイムPCRに用いるためのcDNAを合成している。また、産卵準備期から産卵後期にかけての試料(通常状態及び飢餓状態)もサンプリング済みであり、cDNAを合成後し、これらのサンプル中におけるMBSP遺伝子の発現を調べるため、リアルタイムPCRを実施する。以上の結果から、オートファジーとMBSPの関係を推定する。 一方、筋肉の組織サンプルを用いて、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションを行い、MBSP遺伝子が発現する過程や筋肉細胞におけるMBSPの分布を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度及び令和5年度前半期の研究により、本研究課題の研究対象である筋原線維結合型セリンプロテアーゼについて、本酵素の遺伝子が消化酵素であるトリプシンの遺伝子から遺伝子重複により進化したことが分かった。本成果を論文としてまとめて令和5年度中に学会誌「Fisheries Science」に投稿する予定であった。そのため、論文の英文校閲のための費用として約10万円を使用せずに残していた。しかしながら、令和5年度後半期は、学内の書類作成や実習の補講等の業務が例年に無く多く発生し、同期間中は本課題の研究にほとんど着手することができなかった。そのため、論文執筆が行えず、英文校閲に依頼することができなかったことから、10万円が未使用となった。 令和6年度前半期中には、本論文を執筆し、英文校閲の後に学会誌へ投稿する予定であるため、残額となった10万円を使用する予定である。 また、試薬等の消耗品の購入において、見積金額と実際の支払金額との間に多少の相違があた。さらに令和6年度水産学会春季大会において研究発表を行ったが、円安及びインバウンドの急増により宿泊費の変動があった。結果的に、実際の使用額と当初の予定額の間に、22000円程度のずれが生じた。
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