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2023 年度 実施状況報告書

魚類寄生単生類の宿主認識分子機構

研究課題

研究課題/領域番号 22K05835
研究機関鹿児島大学

研究代表者

田角 聡志  鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (90359646)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード魚類寄生虫 / 宿主特異性 / 糖鎖
研究実績の概要

今年度も昨年度に引き続き、alpha-1,3-fucosyltransferase 7(FUT7)遺伝子の機能を欠失したクサフグの作出を継続して行った。2022年度に作出したF2世代の雌親は成熟に最低2年を要するため、今年度は継続して飼育を行った。併せて、来年度の次世代作出に向けたスクリーニングを開始したところである。
本研究のこれまでの一連の結果より、FUT7遺伝子の機能欠失のみでは、クサフグの鰓におけるL-フコースの量を減らせない可能性が考えられたため、L-フコース転移酵素全般の阻害剤を探索した。その過程において、L-カルボシステインが有力な候補として浮かび上がった。そこで、L-カルボシステインを飼料と共にクサフグに経口投与し、鰓におけるL-フコースの存在量に変化があるか、また投与によってエラムシの感染動態に変化が生じるかどうかを検討した。L-カルボシステインの経口投与の結果、全個体ではなかったものの、L-フコースの鰓表面における存在量が減少した個体が認められた。また、L-カルボシステイン投与区において、非投与区に比べて着定虫体数がやや少なくなる傾向がみられた。しかしながら、再現性については今年度の時点では未確認のままである。
魚類FUT7の機能については不明な点が多いことから、本研究からの派生テーマとして、ゼブラフィッシュを用いたFUT7機能欠失魚の作出にも取り組んだ。今年度はひとまず、CRSPR/Cas9システムを利用して、F0世代の作出を行った。個体数は多くないものの、順調に成長した個体を得ている。並行して、モルフォリノオリゴを用いた機能欠失実験も実施した。今のところ明確な表現型の違いは観察されておらず、実験条件の検討が必要である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

FUT7遺伝子の機能を欠失した個体を作出するために用いるF2世代は順調に成長しており、次年度にF3世代を予定通り作出できそうである。この魚は、本来寄生虫の宿主特異性を調べる目的で作出していたところだが、概要で述べた通りその目的には使えなさそうである。しかしながら、本遺伝子は哺乳類で免疫系に重要な役割を果たしていることが知られているため、魚類のおける機能解析に利用が可能である。
一方、L-カルボシステインを用いることで、鰓表面のL-フコースを減少させたクサフグが得られそうである。これを用いた感染実験の条件の至適化を行うことによって、エラムシの寄生成立に糖鎖が関与しているかどうか、という本研究で掲げた研究目的に迫ることができると考えられる。
最終年度へ向け、ブリ類のハダムシの研究も計画中である。これまで入手できなかったヒレナガカンパチの入手に目途が立ったため、これを用いた種間比較を行うことによって、ハダムシの宿主認識機構の一端を明らかにできることが考えられる。また、宿主の皮膚およびハダムシのオンコミラシジウム幼生からConAに結合しうる糖タンパク質を複数得ている。先行研究によると、ハダムシの着定はConAによって阻害されることが示されていることから、ConAが結合する糖タンパク質が宿主認識に重要な役割を果たしていることが考えられている。今回得た糖タンパク質がその認識に関与している可能性が考えられ、今後の同定の結果が待たれる。
以上のように、想定外の結果も得られつつ、最終年度の研究につながるような成果も得られていることから、概ね順調に進展していると判断される。

今後の研究の推進方策

つい先日、F3世代作出に向けたF2魚のスクリーニングのための準備が終わった。具体的には、鰭からのゲノムDNAの抽出と個体へのピットタグによる標識を完了した。これからF3世代の作出に用いる親魚のスクリーニングを開始する予定である。その後、成熟期になったら次世代の作出を行い、ひとまずゲノム編集魚の作出を終了させる予定である。
L-カルボシステインを投与する実験だが、今年度は再現性のあるデータが取得できなかった。これは、実験期間中に記録的な大雨に見舞われ、実験海水の塩分濃度や水質に大きな影響が出たためだと考えられた。また、投薬条件も至適であったとは言い難い。最終年度はこれらの問題点を解決すべく、まずは投薬条件の至適化を行う。さらに条件が許せば、感染実験も実施する予定である。
ブリ類のハダムシについては、まずヒレナガカンパチの鰭および皮膚のトランスクリプトーム解析を行う。この結果と、これまで得られているブリおよびカンパチのトランスクリプトーム解析のデータを用いて、これらの種におけるハダムシに対する感受性の種間差をもたらす遺伝子の探索を行う。ヒレナガカンパチはハダムシに対する感受性が極めて高いことから、これら3種の比較によって感受性の種間差がもたらされる理由に迫る。先行研究に着想を得た、ConAに結合する糖タンパク質だが、既に精製まで終了している。このあとLC-MS/MSによる同定を行い、宿主認識に関与する候補分子が何であるのかを明らかにする。さらにin vitro着定実験により、寄生虫あるいは宿主どちらの糖タンパク質が宿主人志位に関与しているのかについても明らかにしてゆく。

次年度使用額が生じた理由

遺伝子編集クサフグの表現型を、当初鰓表面のL-フコースが消失あるいは減少するものと想定していた。当初予算はその想定に基づいて組んでいたが、FUT7遺伝子一つではL-フコースの存在量に影響を与えないことが示されたため、計画していた実験のいくつかを実施できなかった。このため、次年度使用額が生じてしまった。
次年度では、今回作出する遺伝子編集クサフグの使用目的に修正を加え、新たな実験を行うことによって、今年度使うことのできなかった研究費を用いる予定である。

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公開日: 2024-12-25  

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