研究実績の概要 |
研究代表者は、褐虫藻(Breviolum minutum, Bm)をはじめとする藻類やシアノバクテリア、タバコカルスの液体培地に酸化亜鉛ナノ粒子を添加すると、細胞増殖が促進されることを見出してきた。褐虫藻はサンゴに共生してサンゴ形成を支える重要な生物であるが、その生育制御の分子機構に関する知見は乏しい。そこで、酸化亜鉛ナノ粒子の添加によって細胞増殖が促進する際に発現が変動する遺伝子に着目した。先行研究のRNA-seq解析から、転写因子Cold Shock Protein (CSP)が細胞増殖制御に関わる可能性が示唆された。本研究では、酸化亜鉛ナノ粒子を添加した際に発現が誘導される2種類のBmCSP (BmCSP1、BmCSP2)に着目し、これらの因子による細胞増殖促進の分子機構を明らかにすることを目的とする。以下に示す5つの研究計画を進めている。 計画① BmCSP1、BmCSP2タンパク質の大腸菌発現系構築と核酸結合解析、計画② 凍結への感受性が報告されているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana, At)Atcsp3変異株にBmCSP1またはBmCSP2を導入した遺伝子組換え株の作出、計画③ Atcsp3変異株に、BmCSP1またはBmCSP2の核酸結合領域(Cold Shock Domain, CSD)をシロイヌナズナAtCSP3のCSDと置換したAtCSP3_BmCSD1またはAtCSP3_BmCSD2を導入した遺伝子組換え株の作出、計画④ ②③で作出したシロイヌナズナ株の表現型解析、計画⑤ ②③で作出したシロイヌナズナ株のmRNA-seq解析
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況を、【研究実績の概要】に示した研究計画に沿って報告する。 計画① BmCSPタンパク質の大腸菌発現系構築と核酸結合解析 BmCSP1: glutathione S-transferase (GST, 226 amino acids)タグ融合タンパク質として大腸菌で安定に発現し、精製できた。ネガティブコントロールのGSTとGST-BmCSP1を以降の核酸結合解析に使用した。GSTは大腸菌やコムギのCSP精製に用いられており、核酸結合活性を示さないことが示されている(JBC, 1997, 272, 196; JBC, 2002, 277, 35248)。しかし、double stranded (ds) DNAとしてpUC118を用いたゲルシフトアッセイは、GST、GST-BmCSP1ともにpUC118との相互作用を示した。GSTタグを除去するとBmCSP1は不溶化したため、BmCSP1特異的なdsDNA結合活性を示すことができていない。一方、GST、GST-BmCSP1ともにluciferase mRNA、47 baseから成るsingle stranded (ss) DNAとの結合活性を示さなかった。BmCSP2:褐虫藻cDNAライブラリーからクローニングできなかったため、大腸菌に最適化したコドンを持つBmCSP2遺伝子を人工的に合成した。GSTまたはHisタグ融合タンパク質として大腸菌で発現、精製することができた。今後、dsDNA、ssDNA、RNAとの結合解析を進めている。 計画② BmCSP1を発現するシロイヌナズナの作出と、計画③ Atcsp3 変異株にBmCSD1を含むAtCSP3を導入したシロイヌナズナの作出は、形質転換体の選抜を終えた。BmCSP2について、計画②③が進行中であるため、進捗状況はやや遅れていると報告する。
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