研究課題/領域番号 |
22K05853
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
草苅 仁 高崎健康福祉大学, 農学部, 教授 (40312863)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 食農連携 / 環境対策 / タダ乗り |
研究実績の概要 |
日本が持続可能な食と農の連携を実現するためには、環境負荷を軽減するための環境対策を内包した連携システムの構築が不可欠である。そのため、消費主体としての家計に求められる役割は、家計が環境対策を付加価値として評価した上で、その評価を実際の購買行動に反映させることである。本研究の目的は、①環境対策について家計のタダ乗りを抑止するための方策と、②家計が環境対策を付加価値として購買行動に反映させるための条件を検討して、③持続可能な食農連携システムの構築に向けた政策のあり方を提言することである。 初年度の令和4年度は、①環境対策に対して家計のタダ乗りを抑止するための動機付けについて考察した。この際の家計のタダ乗りとは、家計が環境対策の価値を評価して消費行動に反映させようとしないため、生産者は環境対策にかけたコストを回収できない状態のことである。主に理論分析の整理から以下の帰結を得た。(1)従来は農業生産が「多面的機能」を体化した生産プロセスであることを印象付けてきたが、この方法は私的財としての農産物と公共財としての環境保全が結合生産物であることを意味するに等しく、公共財のタダ乗りを抑止できない。(2)環境対策の外部性を放置すると「先駆者損失」が発生する。(3)タダ乗りを防ぎ、温暖化問題を先送りせず、「先駆者損失」を発生させないための理論的な条件は、私的財としての差別化と外部性の内部化であり、ラベリングによる差別化(公的機関による認証)などが有効である。ただし、差別化した付加価値を購買行動に反映できる消費者の購買力が必要であり、この点は政策的な課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の交付申請書における「令和4年度の研究実施計画」の概要は次のとおりである。①環境対策に対して家計のタダ乗りを抑止するための方策を考察する。そのために以下を実施する。(1)関係論文を収集して理論分析に必要な概念を整理する。(2)市場メカニズムが機能する私的財の競争的市場では、技術開発などで発生する先駆者利益を擁護するために市場の規制が正当化される。一方、公共財でタダ乗りが可能な環境対策の場合は、「先駆者損失」のような状況が発生することを明らかにする。(3)政策的なインセンティブによって、「先駆者損失」の状況を転換して協調を促進するための方策を理論分析から明らかにする。 「研究実績の概要」に記載したとおり、交付申請書の「令和4年度の研究実施計画」に対してほぼ計画どおりの進捗状況であることから、(2)おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の令和5年度は、②家計が環境対策を付加価値として評価するとともに、購買行動に反映させるための条件を検討する予定である。最近のコロナ禍による給付金などの臨時収入を除けば、家計の消費支出、可処分所得、純貯蓄残高それぞれの実質値は、いずれも90年代初頭から低下傾向にある。勤労者の平均賃金は非正規雇用の増加によって停滞したまま家計の購買力は低下しているため、環境対策を付加価値として評価し、購買行動に反映させることが難しくなっている。 最終年度の令和6年度には、前年度までの①と②の分析結果をふまえて、政策的なインプリケーションを検討する。環境対策は正常財であり、環境対策を内包した食農連携が十分に機能するためには、①で示したタダ乗りを抑止する購買動機と、②その購買動機を消費者が評価して実際の購買行動に反映できるだけの購買力の双方が必要となる。こうした観点の分析を通じて持続可能な食農連携システムの構築に向けた政策のあり方を提言する。
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