研究課題/領域番号 |
22K05896
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中田 達 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 主任研究員 (10584336)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 灌漑排水 / 時系列応答解析 / 排水路 / 水利施設 / 反復利用 |
研究実績の概要 |
農業排水路をゲートで堰上げ、そこからの水を農業用水として反復利用している地区として、茨城県南部の低平水田地帯を選定した。灌漑期間中に農業排水路の堰上げゲートの上流および下流に水位計を設置し、水位の時系列データを収集した。また、施設管理者の土地改良区に、利水管理と洪水リスク管理の両立するためのゲート操作タイミングの意思決定プロセスについての聞き取り調査を行った。ゲート操作のタイミングには、おおよその水位上昇の閾値は存在するものの、ゲートの操作量(開度変化量)は経験に基づいた操作がなされており、操作量とタイミングの決定プロセスおよび操作後の水位変動の予測にニーズがあることが明らかになった。 排水河川の過去の時系列水位データを使って、時系列解析の一種であるARIMAXモデルを利用し、ゲートの開閉タイミングを抽出することを試みた。水位に加えて地域への雨量を外力項とした場合は、外力がパルス入力として後続的に影響を与えることができないため、水位の再現精度が高まらないことがわかった。そこで、雨量を流出解析等により流出量に変換させ、時間遅れを表現することで、外力項による再現精度の向上が認められた。ただ、ゲート管理者はかなりの頻度で小さな操作量のゲート開閉を行っていたことが聞き取り調査等から判明し、小さなゲート開閉タイミングを時系列解析からトレンドの変化点として抽出することは容易ではないことが明らかになった。 そのため、地区の排水解析モデルを構築し、任意のゲート開閉を与えて仮想の水位時系列データを多量に生成することとした。ゲートの開放タイミングや操作量を種々に変えたシナリオ分析を実施した。対象地区は灌漑期にできるだけ高い水位を維持する方策を取っているため、日常的な降雨量であっても溢水を防ぐためにゲート操作を必要とするような、安全側に配慮した管理が行われていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象地区を選定し、灌漑期間中に農業排水路の堰上げゲートの上流および下流に水位計を設置し、水位の時系列データを収集できた。また、時系列解析としてARIMAXモデルを利用し、水位に加えて雨量を流出解析等により流出量に変換させて外力項とすることで水位の再現精度が向上することが明らかになった。ただし、時系列解析によるトレンド変化点とゲート操作タイミングの比較には、物理モデルを用いてゲートの完全開閉を前提とした水位変動データによるシナリオをもとに解析を進めていくことが必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
施設操作の運転トリガー閾値の学習では,操作タイミングにおける直近水位のトレンド(自己相関項)や雨量(外因性項)の共通点の学習から、トリガーとなる閾値を推定することで、ゲートの開閉やポンプの運転オンオフを閾値で表現する制御アルゴリズムが導き出される。既往の降雨イベントを学習データと検証データに分類し、推定された閾値が操作タイミングと合致しているか検証する。さらに、開発進行中の農業水利施設の遠隔監視・自動制御システムの中で、雨量や水位のリアルタイム情報を用いて、操作タイミングを予測できるか検証する。台風などの、気象予報を意思決定要因とした数日・数時間先の降雨がトリガーとして必要となる場合を想定し、気象予測データを説明変数に取り込み、推測精度の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
契約研究補助の雇用を2023年度からに変更したため、22年度に賃金の支出がなかった。23年度はおよそ50万円の人件費の支出を予定している。また、時系列解析モデルの解析についても22年度にアウトソーシングを予定していたが、水理モデルとあわせて網羅的に解析をすることで効率化を図ることとし、23年に計上を予定している。
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