研究課題/領域番号 |
22K05926
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
加来 伸夫 山形大学, 農学部, 教授 (80359570)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 細胞外電子伝達 / 廃水処理 / 嫌気発酵 / メタン生成 / 微生物燃料電池 |
研究実績の概要 |
近年、有機性廃棄物(バイオマス)を微生物の機能を利用して分解浄化しながら、エネルギーとして利用可能なメタンを回収できる嫌気発酵が改めて注目されている。嫌気発酵では、バイオマス分解の中間産物として酢酸をはじめとする揮発性脂肪酸(volatile fatty acids, VFA)が生成される。VFAの分解反応は吸エルゴン反応であり、VFA分解細菌とメタン生成古細菌の間の栄養共生(異種生物間での直接的な還元力の授受)に依存しなければ進行しない。易分解性有機物を高濃度で含むバイオマスの嫌気発酵処理では、栄養共生による分解能力を超えてVFAが生成されるため、pHが低下して発酵プロセスが崩壊してしまう。この問題は、嫌気発酵をより幅広い有機性廃棄物の処理に適用していく際の最大の障害となっている。本研究では、VFAが蓄積しやすい「難処理廃水」を対象に、VFA分解で生じる還元力を、導電性の固形物を通して遠方の微生物に受け渡す「電気共生」や還元力を電極で受け取って電力として除去する「微生物燃料電池」を利用して、発酵プロセスの崩壊を防ぐ技術の開発を目指す。 都市下水嫌気消化汚泥を微生物源として立ち上げたメタン発酵槽と2槽式微生物燃料電池(MFC)にエチレングリコールを添加して保温した。メタン発酵槽とMFCにおいてエチレングリコール分解の中間産物として蓄積する酢酸の濃度やメタン生成量などを比較することで、細胞外電子伝達の嫌気分解安定性への寄与について検証した。メタン発酵槽において、エチレングリコール添加濃度0.1%(v/v)ではメタン生成が進行したが、0.2%では不安定化しやすく、0.3%では酢酸が蓄積してpHが低下したことでメタン生成が完全に阻害された。一方、MFCでは0.5%以上でも酢酸分解が進行してメタンが生成され、細胞外電子伝達がメタン生成を安定化することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、VFAとしてプロピオン酸と酢酸を含む(あるいはプロピオン酸と酢酸が蓄積する)比較的単純な組成の培地を用いて、細胞外電子伝達を利用したVFA分解微生物とメタン生成古細菌の電気共生系を確立することを目的とした。また、この系を利用して、電気共生に与える培養条件(温度、pH、基質の種類と濃度、導電体の種類と量など)の影響を調べる予定であった。酢酸分解については、細胞外電子伝達を利用することで、その安定した分解とメタン生成を実現できることを確認できた。エチレングリコールを基質とした場合、メタン発酵槽ではエチレングリコール濃度0.1%(v/v)で安定してメタン発酵が進行したが、それよりも高い濃度では酢酸が蓄積したことで低pHとなりメタン発酵が不安定となった。一方、細胞外電子伝達を利用したはMFCでは、エチレングリコール濃度0.5%(v/v)以上でもエチレングリコール分解により生成された酢酸が高濃度で蓄積することなくメタン生成により消費されることが明らかとなった。このように、酢酸分解とメタン生成が細胞外電子伝達により結びつくことで、両者が効率よく進行し、pH低下を引き起こすことなく発酵プロセス全体が安定して進行するなど、細胞外電子伝達の効果に関する知見が得られた。一方で、プロピオン酸分解については細胞外電子伝達の効果を検証する実験を十分に行えず、電気共生によるプロピオン酸分解とメタン生成の安定化については不明なままである。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は酢酸分解の細胞外電子伝達を利用した実験にを行った。今年度は令和4年度に行えなかったプロピオン酸分解への細胞外電子伝達の影響について調べる。さらに、酸性化しやすい難処理廃水(食品工場からの洗米廃水やシロップ廃水、廃棄不凍液など)を用いて電気共生系を確立し、効率的で安定した嫌気発酵を達成する。電気共生系の確率には2槽式MFCを用いる。負極槽には酢酸およびプロピオン酸を含む培地を入れて、微生物源として都市下水嫌気消化汚泥を接種する。また、正極槽には有機物を含まない培地をいれて、さらに微生物源である都市下水嫌気消化汚泥を添加して保温する。これにより、負極槽の電極上では酢酸分解やプロピオン分解を担う細胞外電子伝達細菌が増殖し、正極槽の電極状には、電極から電子を受け取るメタン生成古細菌が増殖するはずである。十分にこれらの微生物が負極上ならびに正極上に増殖した頃をみはからって、MFCから両極を取り出す。取り出した正極と負極を繋いで、メタン発酵槽にいれて酢酸やプロピオン酸を基質としたメタン発酵を行わせる。電気共生が確立されていたら、電極を使用しない場合(人為的な電気共生を行わない場合)と比べて効率的に、そして安定的にVFA分解とメタン生成が進行するはずである。この実験系において、電気共生を利用することでメタン発酵が安定的・効率的に進行することが確認できたら、他の各種廃水で同じように上手く電気共生を利用した嫌気発酵系を確立できないか実験を行って確認する。
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