研究課題/領域番号 |
22K05927
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小松崎 将一 茨城大学, 農学部, 教授 (10205510)
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研究分担者 |
浅木 直美 茨城大学, 農学部, 准教授 (40571419)
西澤 智康 茨城大学, 農学部, 教授 (40722111)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機農業 / カバークロップ / 雑草防除 / 農作業システム / 水稲 |
研究実績の概要 |
有機農業では除草剤を使わないため、雑草対策には多大な労力が必要である。2023年ではヘアリーベッチとイタリアンライグラスを用い、カバークロップによる雑草抑制効果と窒素供給を検討した。これら2種類のカバークロップの有無および耕起を行わない不耕起処理の組み合わせが水稲と雑草の生育に与える影響を明らかにすることを目的として圃場試験を実施した。水稲品種はコシヒカリを用いた。茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター内の水田に、カバークロップ区とカバークロップを栽培しない冬作裸地区を設置した。カバークロップ区と裸地区にそれぞれ耕起と不耕起処理を行い、計4つの処理区を4反復設置した。カバークロップ/耕起区と裸地/耕起区では、カバークロップまたは雑草を細断し、土壌にすき込み、湛水後に代掻きを3回行った。一方、カバークロップ/不耕起区と裸地/不耕起区では、カバークロップまたは雑草を裁断せず、不耕起条件で湛水し代掻きは行わなかった。4月下旬に湛水を開始し、2023年5月29日に水稲を移植した。栽培期間中の雑草防除は行わなかった。結果をみると、生育期間中の雑草の発生数と地上部の乾物重は、処理区間に有意な差は見られず、いずれの処理区でも雑草防除なしに水稲の生育が優占した。2022年では、カバークロップ/耕起区で裸地/耕起区よりも雑草の発生が少ないとされていたが、2023年では、カバークロップ/耕起区で雑草量がやや多い傾向がみられた。しかしながら、有機水稲を継続することで雑草発生量が減少する傾向が認められた。以上の結果から、有機農家が実践している雑草のでない水田を再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、有機農家が実践している「草取りをしない有機稲作」技術を対象としてそのメカニズム解明に焦点を当てている。今までの研究結果から次の2点が明らかとなった。 複数回代掻きによる雑草抑制:有機農家が10年以上にわたり有機管理を行ってきた水田と大学農場の冬作の裸地とカバークロップ区の土壌をポットに詰めて、コナギの発生状況を調査した。週ごとにポット内で1回から3回の代掻きを行った。有機農家の水田土壌からはほとんどコナギが発芽しなかった。一方、大学農場の土壌では、代掻きなしまたは1回の代掻きではカバークロップ区においてコナギの発生が多く見られたが、3回の代掻きを行うと裸地よりも少なくなった。春先の発芽可能な埋土種子をカバークロップの鋤き込みで促進し、複数回の代掻きにより種子の発芽を阻止するメカニズムが考察された。また、有機農家の水田では大学農場と比較して雑草の発生数が著しく低かったことから、有j器物蓄積に伴う土壌の環境の違いが考察された。 土壌炭素蓄積に伴うトロトロ層の出現:有機農法を継続して5年目で、大学内の水田においても草取りを行わない有機稲作が成功した。大学農場の慣行栽培と有機栽培水田の土壌を比較するために、ペットボトルに詰めて撹拌し、その後静置して混濁度を比較した。その結果、慣行栽培の土壌は撹拌後速やかに澄んでいくのに対し、有機栽培の土壌は特に緑肥利用時には撹拌してから8時間後も濁りが残った。この濁りは雑草抑制に寄与する可能性がある。また、土壌中の炭素濃度は裸地が6.4%に対し、カバークロップ利用では6.8%とカバークロップ利用で炭素蓄積が観察された。この僅かな炭素蓄積が、代掻き後の濁りを促し、土壌表面に堆積するトロトロ層として雑草の発生を抑制することに関与していると推察された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、カバークロップを活用することで、有機物供給に伴う炭素蓄積によるトロトロ層出現に伴う雑草抑制機構の発現と栄養塩供給に伴う水稲の収量向上が認められている。この現象の解明のために2024年は、以下の取り組みを行う。 ①土壌炭素濃度別の代掻き土壌の土壌粒子の沈降速度をもとめ、濁度の持続時間との関係について明らかとする。火山灰土壌の炭素蓄積については、Hashimi et al. (2023)において、土壌の団粒別の炭素濃度の際は認められない。したがって、代掻き土壌における濁度の継続には土壌の微粒子の炭素量に依存する可能性が高い。そこで、水田土壌の炭素量とトロトロ層の厚さおよび粒子の炭素量について関係解析を行う。 ②イネ科およびマメ科カバークロップの混播による水稲の収量向上については、カバークロップすき込み前の有機肥料散布により、慣行施肥量の約25%で反収400kg以上を確保できた。この収穫量が、2024年においても確保できるのかどうか、年次間の反復を踏まえて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年は、以下の取り組みを行うために計上する。 ①土壌炭素濃度別の代掻き土壌の土壌粒子の沈降速度をもとめ、濁度の持続時間との関係について明らかとする。火山灰土壌の炭素蓄積については、Hashimi et al. (2023)において、土壌の団粒別の炭素濃度の際は認められない。したがって、代掻き土壌における濁度の継続には土壌の微粒子の炭素量に依存する可能性が高い。そこで、水田土壌の炭素量とトロトロ層の厚さおよび粒子の炭素量について関係解析を行う。 ②イネ科およびマメ科カバークロップの混播による水稲の収量向上については、カバークロップすき込み前の有機肥料散布により、慣行施肥量の約25%で反収400kg以上を確保できた。この収穫量が、2024年においても確保できるのかどうか、年次間の反復を踏まえて検討する。
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