研究課題
近年、鶏や豚の飼料の約8割を占める濃厚飼料原料の値上がりが著しく、我が国の畜産業の維持が今まで以上に困難な状況に陥っている。我々は、輸入に依存している飼料原料である大豆粕や魚粉の代替物として昆虫を利用できると考え、飼料用昆虫の給餌が鶏や豚の栄養生理に及ぼす影響を研究している。これまでの研究のなかで、昆虫粉末の給餌が採卵鶏の①死亡率を改善し、体重や卵黄重が高値を示すこと、②昆虫油もしくはその代謝産物に抗菌性がみられること、つまり昆虫の飼料利用が養鶏農家の生産性を向上し得ることを見出した。本研究では、上記の現象をもたらした昆虫粉末中成分を特定し、作用機序を解明すると共に、昆虫油中抗菌成分の給餌方法を検証することを目的とする。本年度は採卵鶏への昆虫粉末給餌試験(実験1)および昆虫油の抗菌性確認試験(実験2)を実施した。実験1では採卵鶏に1か月間昆虫粉末および御中粉末中の不溶性画分を給餌し、採卵鶏の体重や卵中におよぼす影響を評価した。その結果、1か月間の給餌期間では採卵鶏の体重や卵重に有意差は確認されず、先行研究で確認された変化は長期間の給餌によりもたらされるものであることが示唆された。次年度以降は先行研究で確認された腸内環境の変化をもたらした要因を明らかにするために、昆虫粉末が生体内でどのように消化発酵されていくのかをIn vitro消化試験およびIn vitro発酵試験により評価する必要がある。また、実験2では今回用いた昆虫油には抗菌性がみられなかったものの、昆虫油の約4割から6割を占めるラウリン酸やその代謝産物であるモノラウリンには抗菌性が認められた。このことから、昆虫油においても給餌方法によっては抗菌性を示すと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、採卵鶏への給餌試験と昆虫油の抗菌性確認試験を実施できた。
昆虫粉末の給餌が家畜の腸内環境に変化をもたらすことが多く報告されているものの、その作用メカニズムについては明らかとなっていないため、In vitro消化試験および家畜の大腸内を再現したIn vitro発酵試験を行うことで、昆虫油中の不溶性画分の消化率や大腸内でのガス産生量、腸内細菌叢に及ぼす影響を評価する。昆虫油については、次年度以降に給餌試験を行うことで、飼料原料としての有用性を評価する。
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Poultry Science
巻: 101 ページ: 101986
10.1016/j.psj.2022.101986