研究課題/領域番号 |
22K05955
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴弘 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80750877)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 筋幹細胞 / 衛星細胞 / 機能的不均一性 / 動物の系統 / 筋管形成 / 筋分化 |
研究実績の概要 |
効率的かつ持続的に骨格筋が肥大するシステムの構築は、食肉科学の観点から生産量向上に直結するため有意義である。骨格筋細胞(筋線維)は最終分化した形態にあるため、自身で増殖ができず、容積増大は大きな刺激を受けなければ誘発できない。一方で、筋幹細胞(衛星細胞)は既存の筋線維に融合することや、新生筋線維(筋管)を形成する能力があるため、筋肥大の実現のためにその特性を理解することが重要である。 近年、衛星細胞は活性状態にあるものと、休止状態にあるものとが同一筋線維上に共局在する “機能的不均一性”をもった細胞集団と認識されている。我々は、よりマクロな視点から衛星細胞の機能的不均一性を捉えるため、「野生型マウスの系統間」という比較基準のもと、筋管の形成能に差異が生じる点に着目している。本研究課題では、その要因を探索するため、各系統に局在する衛星細胞の特性(形成筋管の筋線維型組成や、細胞系譜の変化など)を捉えることで、ポテンシャルの高い衛星細胞を保有する系統と、その反対の性質をもった細胞を保有する系統の特定を目指す。 2022年度は、比較基準設定の妥当性を確認するための基礎的知見収集を目的に、系統の違いに応じた衛星細胞の分化能を中心に解析をした。ICR、C57BL/6(B6)、およびBALB/c(C)の3系統の野生型雄マウスより、それぞれ衛星細胞を単離・培養して、単離直後の衛星細胞マーカー(Pax7およびMyoD)の発現割合、および分化誘導期間における筋分化を制御する転写因子の発現量を比較した。いずれの系統間でもPax7およびMyoDの発現割合に差は認められなかった。しかし、分化誘導過程でのMyoD, myogenin, MEF2Aおよび2Cといった転写因子の発現レベルが、B6、C、ICRの順で高く、差異が認められた。つまり、ICRの衛星細胞では、筋分化のポテンシャルが低いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型マウス系統間における衛星細胞の筋管形成能に差異が生じる要因について、直接的な検証には至らなかった。しかし、衛星細胞の分化を制御する転写因子群の発現レベルを調べたところ、系統間で差がある因子をピックアップできた。よって、次年度以降では、これらの因子の発現制御に関わる細胞外因子、細胞膜受容体、および形成された筋管の筋線維型などをターゲットとし、多面的に要因探索を行う。系統間において筋管形成能ならびに筋分化能に差が生じる要因の特定を、スムーズに進めることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、衛星細胞が産生する筋分化転写因子の発現制御に関わる、細胞外因子(Myostatin, TNF-alpha, およびIL-6など)とそれらの細胞膜受容体の発現量を系統間で比較する。続いて、各衛星細胞が形成した筋管の筋線維型を検証すると共に、これまでの我々の研究より明らかとした筋線維型制御に関わる細胞外因子(semaphorin 3Aおよびnetrin-1)の発現レベルにも着目した検証を行う。なお、衛星細胞を単離する際に使用する骨格筋部位(脊柱起立筋群、大臀筋、大腿四頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、および長趾伸筋)の筋線維型組成も比較する。さらに、筋管形成ならびに筋分化のポテンシャルが低いと考えられるICRの衛星細胞が、筋組織の線維化や脂肪化の起源となる間葉系前駆細胞(FAPs)とコミュニケーションを活発に行う、または衛星細胞自身がFAPs様の細胞へと系譜が変化しているなどの可能性についても検証する。特に、FAPs様細胞へと衛星細胞の特性変化が認められる場合には、ICRと他の2系統の衛星細胞とを共培養に供試し、筋管形成能への影響について調べる。
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