研究課題/領域番号 |
22K05963
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
室谷 進 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 連携調整・専門役等 (50355062)
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研究分担者 |
後藤 貴文 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (70294907)
大島 一郎 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60465466)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 代謝プログラミング / ウシ / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
本研究では、代謝プログラミング研究のために栄養条件を高栄養区(HN)または低栄養区(LN)に設定した飼養条件下の黒毛和種妊娠牛の胎子を分析対象としており、これまでに♂各4頭の胎子骨格筋(最長筋)において、飼養条件区の間で筋重量、多くの遺伝子発現とともに代謝物の含量に有意な差が認められている。この胎齢8.5ヵ月の胎子において、転写活性化に作用するヒストン修飾様式H3K4me3が変動する遺伝子領域があるか否かを追究することを目的としたところである。昨年度までに、ChIP-seq法によりヒストン修飾について網羅的に解析し、H3K4me3の修飾を受けた遺伝子領域として、計約2万7千のピーク領域を検出した。LN胎子において変化したヒストン修飾には、オートファジー関連遺伝子など重要な代謝に関わるものが多く含まれたが、中には転写開始点から2kb以上離れたピークも含まれたため、2023年度は、あらためてゲノム上のピークの位置を精査し候補遺伝子をスクリーニングすることから開始した。その結果、合計43種の遺伝子について、転写開始点から2kb以内にヒストン修飾ピークの有意な変化が認められた(p<0.05)。これらの遺伝子を用いて遺伝子オントロジー解析を行ったところ、cAMP合成に関わるプロセス、PI3K-Aktシグナリング経路にヒストン修飾された遺伝子が関与することがわかった。したがって、こうしたプロセスに関与する遺伝子のプロモーターのヒストン修飾が胎子期の低栄養による影響を受け、低栄養胎子の骨格筋の成長に遅滞がもたらされると考えられた。一方で、同じ個体のLN胎子肝臓のヒストン修飾についても同様の解析を実施した結果、これまでの解析でH3K4me3の修飾を受けた計180種の遺伝子領域に低栄養の影響による有意な差が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に示したヒストン修飾についての網羅的な解析が滞りなく進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
LN胎子の骨格筋および肝臓について、H3K4me3の修飾に変化が明らかになった遺伝子群に引き続き注目して解析を進める。肝臓については遺伝子オントロジーやパスウェイ解析を行い、ヒストン修飾を受けた遺伝子が関与する細胞生物学的現象や遺伝子活性化カスケードを明らかにする。また、PCR等により個々の対象遺伝子について発現変化の影響を確認する。さらに、可能であれば転写抑制に作用すると考えられるH3K27me3の修飾についても解析し、H3K4me3とH3K27me3で修飾される遺伝子の相互関連性や、それらが関与する生物学的現象の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒストン修飾解析の際の次世代シーケンシングおよび解析作業について、委託を予定した業者と異なる外部機関に発注し、経費を相当分抑制することができたため、当該年度残余分が生じた。これを2024年度分の活動予算に加えるが、2024年度には所属機関が変わり、研究体制整備が必要なため、備品の調達に一定の予算を投資する。可能であれば転写抑制に働くヒストン修飾の抗体を使用したChIP-seqの実施を検討する。
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