研究課題/領域番号 |
22K05967
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大久保 武 茨城大学, 農学部, 教授 (70233070)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 摂食 / 視床下部 / レプチン / NPW / ニワトリ |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、卵内レプチン投与に対する視床下部の摂食関連因子の発現応答性が卵用鶏と肉用鶏で一部異なることを見出した。このことを踏まえ、胚の発育、孵化率などを含めてより詳細な影響を確認した。その結果、卵内レプチン投与は孵化率には影響を与えなかったが、肉用鶏では採卵鶏と比較して、孵化までの時間がやや遅延する傾向が認められた。一方卵用鶏では、卵内レプチン投与により18日胚と20胚で体重の有意な減少が認められた。このことから孵卵開始後早期の卵内レプチン投与は、肉用鶏と卵用鶏の双方において胚の成長に影響を与えるが、その効果は系統により異なることが明らかとなった。 また本年度の研究により、受精卵からの卵白一部除去が、肉用鶏及び卵用鶏の摂食制御遺伝子のうち、特に摂食亢進に作用する因子の遺伝子発現を増加させることを見出した。また卵用鶏では、摂食抑制に作用するα-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)の前駆体であるプロオピオメラノコルチンmRNAの発現が卵白一部除去によって低下した。さらに卵用鶏では、卵白一部除去が視床下部のレプチン受容体、神経ペプチドW(NPW)及びNPW受容体のmRNA発現を変化させたが、肉用鶏ではそれら遺伝子の発現に変化は認められなかった。このことから、肉用鶏と卵用鶏では胚時期の摂食制御遺伝子の発現制御が異なることが示唆された。一方肉用鶏では、卵白除去により発生停止が起こる頻度が高い傾向が認められた。肉用鶏では卵用鶏と比較して孵化時体重が重いことから、卵白除去によるタンパク質量の減少が胚の発育に負の影響をもたらすと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、発生後期のニワトリ視床下部における摂食制御遺伝子の発現動態、胚の生育に対する卵内レプチン投与の影響を解析するとともに、前年度は技術的な問題により未達であった卵白除去の影響を検討した。レプチン投与実験では、前年度と同様の再現性のある結果が得られた、また卵用鶏においては胚の発育を遅延させる可能性を新たに見出した。また卵白除去では系統を問わず、卵白除去が視床下部の摂食促進遺伝子の発現が増加させること、卵用鶏では卵白除去による複数の摂食関連遺伝子発現に影響を与えることを見出した。これらの成果は、異なる生産上の特性を持つ肉用鶏と卵用鶏では摂食制御に係る神経回路形成が異なるという仮説を一定程度支持するものである。また今年度の研究では、卵白除去が両系統の摂食促進遺伝子の発現を増加させることを認めている。哺乳類では妊娠中の母親の低栄養は胎児の視床下部における摂食促進遺伝子の発現を増加させ、そうして生まれた子は将来の肥満リスクが高いことが知られている。従って、鳥類でも卵内栄養素の変化が将来にわたり影響する可能性を示す新たな知見である。 そして現在は、これまでに明らかにした各系統における摂食制御遺伝子の発現動態とその差異の結果に基づき、in situハイブリダイゼーションによりニワトリ胚の摂食制御機構の発達に係る遺伝子発現の脳内マッピングに着手している。 しかしながら、当初予定していたNPWの卵内投与が実施できなかったため、レプチンとNPWの相互作用に関する検討を終えられなかったことが最終年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
発生後期の視床下部における、レプチンを始めとする摂食制御遺伝子のmRNA発現とNPWとの関係を明らかにするためにNPWの卵内投与による摂食制御遺伝子mp発現について詳細に検討する。また、卵用鶏と肉養鶏の胚を用い、視床下部の摂食制御遺伝子発現の局在と胚発達における変動をin situハイブリダイゼーションにより明らかにすることで、両系統間の摂食制御機構の差異ついて明らかにする。これらの研究成果を総括し、ニワトリ胚の摂食制御系を含む視床下部の発達へのレプチン及びNPWの関与とその後の成長などへの影響について考察する。 また、これまでの研究で認めた卵用鶏と肉用鶏の間での摂食関連遺伝子の発現パターンの差の原因を追究するために、発現に差が認められた摂食制遺伝子の転写制御領域の構造及びエピジェネティックな変化について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初研究発表を予定していた学会へ出席できなかったため、予定していた旅費の執行ができなかった。また予定していた実験に遅れがあったため、当該実験に必要な試薬類の購入を先送りにした。 遅れていた実験については、令和6年開始当初から実施できる見込みとなったことから、必要な物品を速やかに購入し実験に着手するとともに、令和6年度の実験を並行して実施する予定である。また学会における研究発表についても、本年度は実施できるよう準備を整えている。
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