研究課題/領域番号 |
22K05970
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山内 伸彦 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00363325)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | miRNA / 子宮内膜 / ウシ / 胚伸長 / 培養細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年細胞間の情報伝達において重要性が指摘されているmiRNAに着目し、子宮内miRNAのウシ胚伸長に対する機能的役割を明らかにすることを目標とする。 令和4年度はRNAseq解析によりウシ子宮内膜miRNAの網羅的解析を行った。その結果、卵胞期、黄体期および着床期でそれぞれ374個、398個および728個もmiRNAが確認された。GO機能エンリッチメント解析の結果、それぞれのステージで発現が上昇したmiRNAのターゲット遺伝子の多くは細胞構成成分、中でも細胞質、細胞膜、膜貫通型タンパク質の機能に関与するものであった。また、胚伸長に関与するmiRNAを同定するため、黄体期と着床期で発現するmiRNAの比較を行った。その結果、変化倍率が1.5倍以上かつ片方のステージで1000リードを越えるmiRNAは合計35個確認された。その内、黄体期で発現が高いmiRNAは既知が14個、着床期で高いものは既知が19個、新規が2個であった。これらのmiRNAは胚性因子によって制御され、胚伸長に関与している可能性が示唆された。 さらに、子宮内に存在するエクソソーム(Exo)が胚に与える影響を調べるため、ウシ胚由来の培養栄養膜細胞(BT細胞)を用いてその影響を解析した。ウシ子宮灌流によって回収したExoを蛍光標識してBT細胞の培地中に添加したところ、 ExoがBT細胞に取り込まれていることが確認された。また、Exo無添加区では小胞が消失していたのに対し、Exo添加区では小胞構造が維持されていた。qPCRの結果、Exo添加区においてPCNAおよびCCND1遺伝子の発現量が有意高い値を示した(P<0.05)。これらの結果から、子宮内Exoが胚の生存性および遺伝子発現に対して影響を与える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では子宮灌流液中からエクソソーム(Exo)回収し、内包されているmiRNAの網羅的解析を行う計画であった。しかし、ExoからmiRNAを回収することが技術的に難しかったため、発情周期と着床期の子宮内膜組織から全RNAを回収してmiRNAのシークエンス解析を行った。その結果、各時期に特異的に発現するmiRNAを同定することができ、リアルタイムqPCR解析によってその発現動体を確認している。同定された各時期に特異的なmiRNAはリスト化し、今後の解析に用いられる。一方、今後はExoに内包されるmiRNAが重要となるが、これらはRT-PCRによって確認する予定である。すでにExo内miRNAのRT-PCR解析手法を検討しており、内在性コントロールとなるU6は安定して検出することが可能となっている。令和5年度はリスト化されたmiRNAのプライマーを作製し、Exo内miRNAをRT-PCR解析によって解析する予定である。 さらに、マトリゲル内培養による腺上皮細胞モデルを用いてmiRNAの発現制御機構を明らかにする計画である。腺上皮細胞モデルの作製方法はすでに確立しているが、ウシ胎仔血清(FBS)中に含まれるExoが障害となる可能性が示唆される。この対策としてExoフリーのFBSを用いる予定であるが、BSAの利用や無血清培養などより簡便な方法についても検討する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に行なった研究により、研究計画書で項目1として示したウシ子宮内膜miRNAの網羅的解析はほぼ終了し、各時期に特異的に発現するmiRNAがリスト化できた。令和5年度は培養ウシ子宮内膜を用いてmiRNA発現制御機構の解析(項目2)を中心に研究を進める。現在、単層培養したウシ子宮内膜細胞からmiRNAを回収し、RT-PCRによって発現しているmiRNAの解析を行っている。今年度はこの培養系を用い、ウシ子宮内膜細胞のmiRNA発現制御因子として性ステロイドホルモンおよびINFtの影響を解析する予定である。 さらに、栄養膜細胞(BT細胞)スフェロイドを用いた機能解析(項目3)については、すでに蛍光標識したエクソソーム(Exo)がBT細胞に取り込まれることを確認している。また、子宮内ExoがBT細胞の増殖活性を高めることも遺伝子レベルで明らかにした。今年度はExoに含まれる候補miRNAを同定すると共に、miRNA mimicを作製しLipofectamine(Invitrogen)によってBT細胞をへ導入する条件検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響のため、予定していた学会に参加できなかったため旅費は使用しなかった。また、エクソソームの採取に使用予定であった子宮灌流液採取器具は、ウシの調整がつかず購入しなかった。これらは和5年度に使用する予定である。
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