研究課題/領域番号 |
22K05999
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 千絵 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 教授 (60435964)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | キノロン / 薬剤耐性 / Qnr / サルモネラ / タイ |
研究実績の概要 |
昨年度に続き、点変異を持った組換えジャイレースを用いたインビトロの活性評価系によりWQシリーズ化合物の評価を行った。食中毒の起因菌として重要視されているカンピロバクターでは、分離株におけるキノロン耐性菌の割合が高く、その大半がGyrA T86I変異を持つ。この変異を持つ菌はシプロキサシンやモキシフロキサシンに対しても高度耐性を示すが、WQシリーズの一部の化合物では低濃度(2ug/mL)で有効であることが示された。また、Mycobacterium aviumのジャイレースを用いたインビトロ試験においても、キノロン耐性変異を持ったジャイレースも含め、WQシリーズの化合物が既存のキノロン薬よりも有効であることが示された。 プラスミド伝達性のキノロン耐性因子であるQnrにつき、サルモネラからの分離報告が多いと報告されていたQnrB19を組換え体として発現し、組換えジャイレースの活性評価系へ添加してその作用を調べた。野生型、キノロン耐性菌変異(GyrA S83F及びD87N)を持ったジャイレースとも、QnrB19添加モル数がその等量から約10倍量においてジャイレースの活性を50%から80%復帰させる(耐性度を増加する)傾向が見られた。また、Mycobacterium属菌においては、ゲノム中に保持されている内在性のペンタペプタイドであるMfpAのキノロン耐性への関与が示唆されているが、日本で分離されたM. aviumの約3割でこの遺伝子にフレームシフト変異が入り、活性を失っていることが予想された。それらの株では野生型に比してキノロンに対するMICが有意に低かったことから、MfpAがキノロン耐性に何らかの関与をしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象とする菌種をサルモネラのみならずカンピロバクター、Mycobacterium属菌と広げたため、有意義な発見も増えたが、仕事量も増えた。昨年、タイのカナルから分離されるサルモネラが保持するQnrの殆どがQnrSであることを示したが、この組換え体の可溶化に苦戦している。また、WQシリーズの解析は進んでいるが、他社の異なる骨格を基礎としたキノロンの解析も進める必要がある。立体構造の足掛かりとすべくクライオ電子顕微鏡像の撮影を開始したが、現在、条件検討中であり、その補完も兼ねて電子間力顕微鏡による撮影を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は他社の新規キノロンを追加し、インビトロ評価系を用いた試験を行う。また、サルモネラから高度に検出されることが判明したQnrSの発現、可溶化に取り組み、ジャイレース上の変異との組み合わせ試験を行う。クライオ電子顕微鏡の条件検討を重ね、各種キノロンの結合様式を調べ、構造解析の一助とする。また、原子間力顕微鏡を用いた解析を行い、ジャイレースの動態を観察する。更にはMycobacterium属菌では組換え体を用いた試験で好成績だったキノロンが生菌を用いた薬剤感受性試験では想定された効果が出ない現象が観察され、菌体への透過性の問題が示唆されたため、細胞壁の透過性を高める抗菌剤との併用によるチェッカーボード試験を行う。年度内に得られたデータより、菌種、ジャイレース上の変異の種類、Qnr, MfpAの有無とキノロン骨格との相関性を可能な範囲でまとめ、対象となる細菌の条件に応じて有効と思われるキノロンの一覧を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の繰越し分があったため残額が発生したが、今年度の予算は順調に消費された。次年度は当初の予定に加え、原子間力顕微鏡による撮影(旅費も含む)や論文掲載料の見込み額が増えたため、請求した予算は全額使用される予定である。
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