研究課題
本研究は血管肉腫のがん代謝を制御するエピジェネティクス機構を明らかにすることを目的としている。今年度はまず,血管肉腫患者犬から腫瘍組織を無菌的に採材・培養し,血管肉腫初代培養細胞を樹立した。また,腫瘍組織は免疫不全マウスにも移植され,イヌ血管肉腫患者由来組織移植モデル (PDXモデル) の樹立に用いられた。得られた PDX モデルからも細胞株分離を試み,血管肉腫 PDX 由来細胞株の樹立にも成功した。これらの細胞株を用いて代謝動態と関連のあるエピジェネティクス機構の同定を試みた。またグルタミンまたはグルコース欠乏条件下で血管肉腫細胞を培養し,その状態変化に伴って発現が変動するヒストン修飾酵素を同定した。このヒストン脱メチル化酵素をノックアウトした血管肉腫細胞 (KO細胞) を作製し,免疫不全マウスに移植をしたところ,対照群と比べてKO細胞由来腫瘍では体積の増大速度が有意に減少した。現在,このヒストン脱メチル化酵素の血管肉腫におけるさらなる機能解析を行っている。メチル化以外にもヒストンラクチル化に注目して,血管肉腫の病態解析を試みている。グルコースあるいはグルタミン条件下において,血管肉腫のヒストンラクチル化レベルが顕著に変化することを明らかにした。また,グルタミン欠乏条件では血管肉腫細胞は死滅したものの,グルコース欠乏条件下では血管肉腫細胞は生存した。ヒストンラクチル化の変化と栄養要求性の関連について,現在研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
血管肉腫の研究を進める上での基本的な研究ツールが不足していたため,手術サンプルからイヌ血管肉腫の初代培養細胞株,PDXモデル,PDXモデル由来培養細胞株を作製した。これにより,血管肉腫の円滑な基礎研究を行うことができるようになった。これらの研究ツールを用いることで,グルタミンあるいはグルコース欠乏条件下に関与していると疑われるヒストン脱メチル化酵素の同定,そしてヒストンラクチル化の機能解析を行える段階まで来ることができた。
今後は同定したヒストン脱メチル化酵素の機能解析を進める。具体的にはノックアウト細胞を用いた mRNA-seq を実施し,このヒストン脱メチル化酵素により制御されている遺伝子発現系を解析する。さらに,ATAC-seq や CUT&Tag-seq 等を利用し,がん代謝へのメカニズムを明らかにしていく。ヒストンラクチル化に関しては上記ヒストン脱メチル化酵素の関連を調べるとともに,グルコース欠乏条件下において,どの遺伝子領域がヒストンラクチル化により制御されているかを,ATAC-seq および CUT&Tag-seq を実施して解析していく。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Research in Veterinary Science
巻: 167 ページ: 105120~105120
10.1016/j.rvsc.2023.105120
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/comp-pathol/daimoku3.html
https://readyfor.jp/projects/hsa