研究課題
膵ランゲルハンス島(ラ氏島)の中にわずかな割合で存在するγ細胞は膵ポリペプチド(PP)を産生する。膵内分泌細胞の分化過程や糖尿病モデルにおいて、他の種の様々な内分泌細胞がPpy遺伝子を発現していることが分かっている。そこで、本研究では主にPpy遺伝子座に様々な外来遺伝子を挿入したマウスを作製し、Ppy遺伝子発現細胞の分化可塑性などにおける特異的な性状を明らかにすべく研究を進めている。今年度は以下のように進行している。1.まず、研究代表者らが作製したSV40 ラージ T 抗原を Rosa26 遺伝子座に挿入したマウス(Rosa26-2loxP)と、Ppy-Creを交雑したマウスがCre-loxP組換えたマウスを解析したところ膵臓全体に腫瘍を引き起こした。そこでこのマウスの出生期前後の膵臓を解析し、PpyCreERを応用した発現誘導の系を用いてこの腫瘍の特性について組織学的な検討を進めた結果、元来外分泌細胞に起源すると考えられている(PDAC)を後間もない時期に発症することが分かった(Ofejiro et al., in press)。一方、insulin-Creとこのマウスの交配したマウスではインスリン産生細胞自体の異常増殖にとどまることから、ある種の膵臓癌の発症とPpy遺伝子陽性内分泌細胞の性質との関連に興味が持たれた。2. Ppy発現細胞の分化可塑性や疾患発症との関連を詳細に明らかにするため、様々なマウスとの交雑によりPpy発現細胞の時期特異的な系譜追跡や、ppy発現細胞に特異的な遺伝子欠損マウスの作製をtetON-systemより簡便に行えるマウスの作製を試みた。常法により作製したPpyrtTAマウスとtetOマウスとの交配により得られたマウスでは薬剤による誘導が可能であったが、その効率や特異性に課題があり、今後さらなる改良を要する。
2: おおむね順調に進展している
膵内分泌細胞の中でPpy発現細胞のの特異的な性質が膵癌などの悪性腫瘍の形成過程に寄与する可能性を示唆する結果が得られた。これをもとに、膵組織における腫瘍形成の分子メカニズムの一端を明らかにする端緒になる他、解析に用いているマウスは我々がいずれも新規に作製したものであるため、未だ確立されていなかった疾患モデルとして新たなモデルマウスとして用いることも可能である。また、上記のような研究を含めた特定細胞種における分子機能の異常と疾患発症の関連は、時期特異性を明らかにする検討が必要になってくるため、その実験的な効率を改善する試みを同時に行っているが、近年新たに作製したマウス一部のものは応用可能と考えており、交雑する系統の組み合わせや条件の改善により理想的な実験系を構築できる可能性がある。
Ppy発現細胞の性質と疾患発症の関連を詳細に明らかにするため、多重に系統交雑したマウスを用いた解析を進めている。今までに明らかになった分化可塑性や腫瘍形成における性質のメカニズムの一端をより詳細に解析していくとともに、実験動物を用いた疾患機序解明が今後より効率よく行えるような実験系を構築したい。現在まではタモキシフェン投与によりPpyCreERを用いた時期特異的な系譜追跡が可能であったが、抗エストロゲン作用による実験効率の低下をもたらすことがあるため、近年用いられているtetON-systemにより簡便に薬剤誘導実験が行えるマウスの作製をおこなった。本研究で作製したPpyrtTAマウスとtetOマウス、Cre依存性レポーターマウスの交配では薬剤によるより簡便な誘導が可能であった。その一方で、PpyCreERで観られたようなPpy発現細胞における発現特異性などには問題があり、交雑する系統の組み合わせや条件を検討する。
進行中の実験動物において問題点が複数見つかり、飼育費用や実験にかかる経費が一時的に予定していた額を下回ったが、代替する手段や生物試料を再度検討中であり、該当する実験を再開することにより未使用の経費を使用する必要が新たに生じる。
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The journal of pathology
巻: - ページ: -
Scientific Reports
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41598-023-30498-y