研究課題/領域番号 |
22K06081
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井木 太一郎 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (20774011)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | RNA / 遺伝子制御 / 精巣 / ショウジョウバエ / シャペロン / 非コードRNA |
研究実績の概要 |
本研究は(1)ゲノムの非コード化する現象の背景にある分子機構を明らかにすること、(2)非コード化により生産されるpiRNAの標的を特定すること、(3)精子形成における非コード化現象の生物学的意義を示すことを目的に掲げている。 非コード化機構を明らかにする目的で、非コード化に関与する因子の探索を近接標識法を用いて進めており、ビオチン化酵素とAubの融合タンパク質を生殖細胞特異的に発現させることに成功した。融合タンパク質に依存してビオチン化したタンパク質を精巣から精製して質量分析による同定を行なった。Cyp40を用いた近接標識の場合と比較して、Aubの場合はシグナルが弱く、同定される因子が少ないという問題が浮上した。改善を要する。 近接標識により同定された候補の因子について、機能解析を進めている。とりわけ、Cyp40と近接するCG9899について、機能欠損変異体の作成に成功し、精子細胞の分化に重要な遺伝子だと判明した。しかしながら、CG9899変異体において非コード化piRNAの蓄積は野生型と比較して差がなかった。非コード化piRNAの合成の段階に必要なのではなく、活性の段階で大事な因子なのかもしれない。 非コード化を起こす遺伝子には、内在siRNAの標的として報告されているATPsynbetaやmus308が含まれていることが判明した。内在siRNAの経路はDcr2とAgo2に依存する。それぞれの欠損変異体の精巣においてpiRNAの蓄積を調べた。すると、驚くことに、トランスポゾンpiRNAに変化がない一方で、非コード化piRNAの蓄積が半分以下にまで低下することが判明した。この結果は、非コード化には、cyp40、ago2、そして、dcr2が、重要な役割を果たしていることを意味する。引き続き、非コード化に必須の因子が精巣に存在すると想定して、同定を目指して研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非コード化という現象を引き起こす因子の同定を目指して研究を進めている。研究提案時点では、近接標識の手法を用いて候補因子の探索を進めるとしていたが、期待されたような結果は得られていない。しかしながら、別角度からの解析により、ago2とdcr2という二つの因子が非コード化と密接に結びついた因子だと判明した。すなわち、ゲノムの非コード化する現象の背景にある分子機構を明らかにすること、という到達点に向かい、着実に研究が進んだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
非コード化の解明に向けた因子の探索と同定は概ね順調に進んでいる。一方で、非コード化により生産されるpiRNAの標的の同定は困難が予想される。近接標識の効率が問題点である。 これまでに、ago2とdcr2が非コード化に関与すると判明した。今後は、非コード化により生産されるpiRNAの標的を特定するために、aub、ago2、dcr2の変異体の精巣において転写産物をディープシーケンシングにより解析する予定だ。piRNAの標的は、それぞれの変異体において異常に蓄積している可能性がある。全ての変異体において転写産物の異常な蓄積を示す遺伝子群に注目したい。 aubの変異体も、ago2やdcr2の変異体も、減数分裂を終えた精子細胞の分化に顕著な異常が観察される。非コード化の生物学的意義として、精子形成過程の最終工程における重要性を提示したいと考える。しかしながら、aubもago2も機能が多彩な因子であり、非コード化とは関係のない機能が重要なのか、それとも、非コード化が重要なのかを区別して示すことが困難である。そこで、非コード化が大事だという主張をするために、aubやago2の機能の一部を失わせる点変異体を用いた研究を進める予定だ。例えば、Aubの場合、トランスポゾンを制御するために細胞質にあるヌアージュという非幕系構造体に蓄積することはよく知られている。一方でAubの核内における機能は未知である。Aubの核内と細胞質の局在を制御することで、非コード化に関わるAubの機能だけを失わせることができないかを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験の全てを遂行できなかったため、物品費が予定より少なくなった。2023年度において、予定しているトランスクリプトーム解析などに充当する。
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