研究課題/領域番号 |
22K06088
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前川 裕美 九州大学, 農学研究院, 講師 (80399683)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 接合型変換 / Flip-flop / 染色体逆位 / 相同組換え / 接合 |
研究実績の概要 |
Ogataea polymorphaのFlip-flop型接合型変換は栄養飢餓条件下でのみ誘導される。接合型遺伝子座付近のRad52 ChIP解析を行ったところ、飢餓条件下ではDNA組換えが起こるIR近傍へのRad52蓄積が高くなっていたことから、組換え修復でのCrossover頻度が上がるのではなく、IR近傍にDNA損傷が生じると染色体逆位(Flip-flop型接合型変換)が誘導されることが示唆された。次に、これまでのIR位置変異株の解析からセントロメア近位のIR領域が染色体逆位に必須であることを見出していたことから、セントロメア特異的な染色体構造が重要である可能性を検討した。Tetプロモーターとオーキシン・デグロン法を用いてセントロメア特異的CENP-Aホモログ(OpCNP1)の条件変異株を作製したところ、OpCnp1欠失条件では接合型変換は誘導されなかった。この結果から、セントロメア構造はFlip-flop型接合型変換においてセントロメア近位の接合型遺伝子座のサイレンシングだけでなく、染色体逆位誘導に積極的な役割を果たしている可能性が示唆された。 また、接合が誘導される飢餓固体培地での培養と接合が見られない液体培地培養でのRNA-seqを行った。予想どおり性フェロモン受容体遺伝子STE2, STE3の発現に違いがみられたのに加えて、固体培地でのみ顕著に発現上昇した遺伝子群を同定した。その中の一つであるOpHSP5は、遺伝子欠失変異株の解析からα型細胞特異的に接合に必須であった。O. polymorphaでは接合条件でもS. cerevisiaeや分裂酵母S. pombeに見られる強い性的凝集は見られないが、OpHsp5はアグルチニンと弱い類似性を示しており、細胞間接着に関与する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたIR変異株、セントロメア構造変異株の解析を概ね終えることができた。また、接合有・無条件でのRNA解析データを既に得ており、栄養飢餓では多くのストレス応答遺伝子の発現変化が起こるため接合型マーカー候補の取得には至っていないものの、接合型特異的に接合に必須かつ種特異的因子を見出しており、O. polymorphaの接合過程の理解につながる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、CENP-Aと相同組換え因子の相互作用について解析する。Candida albicansにおいてRAD51-Rad52がCENP-Aヌクレオソームを維持する役割を持つことが報告されていることを参考に、セントロメア蛋白質と相同組換え因子間の物理的・機能的関係を酵母Two-hybrid法、蛋白質免疫沈降法および遺伝学的手法を用いて検証する計画である。 今後は、これまでの研究計画に加えて新たな方策を導入する。O. polymorphaの近縁種Ogataea naganihiiは、a型とalpha型接合型遺伝子を各一つ持つもののIRを持たず、ゲノム構造変化を伴わない一次ホモタリズムと考えられることが報告されている。本代表者はPCR法により簡易的にO. naganihiiの接合型遺伝子間の遺伝子配列変化を調べたが、逆位は誘導されないことを示唆する結果を得ている。そこで、O. naganihiiの飢餓条件でのRNA-seqを行い、既に得ているO. polymorphaのCAGE解析との比較解析からFlip-flop型(二次ホモタリズム)または一次ホモタリズムに特異的に発現する遺伝子群を明らかにし、遺伝子発現における各ホモタリズムの特徴を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA-seqの受託解析費用が当初予定よりも安価であったことから、予算上実施が難しいと考えていたChIP seq解析、近縁種のゲノム配列解析、発現解析を実施することにした。しかし、サンプル準備が遅くなったことから次年度に実施することとした。次年度使用額はこれらのゲノム・RNA発現解析の受託費用として使用する計画である。
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