研究課題/領域番号 |
22K06110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平野 良憲 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (50452529)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 転写後修飾 / 翻訳後修飾 / 低分子量Gタンパク質 / Ras / パルミトイル化 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
タンパク質の脂質修飾の1つS-パルミトイル化は可逆的な翻訳後修飾で、多くのタンパク質の細胞内局在、安定性や機能を制御しており、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の機能制御に必須である。哺乳類においてパルミトイル化はZDHHCファミリーと呼ばれるS-アシル転移酵素により触媒される。一方、脱パルミトイル化はAPT1/2やABHD17等の加水分解酵素により触媒される。これらの酵素はがん遺伝子やがん抑制遺伝子の機能を調節しており、がんにおいては発現パターンに変化が見られため、S-パルミトイル化のダイナミクスを制御する酵素はがん治療薬の標的候補と考えられている。本研究では低分子量Gタンパク質N-RasのS-パルミトイル化ダイナミクスを制御に着目し、脂質修飾よるN-Rasの機能制御機構の理解やがん治療薬の創出に指向した研究展開のための基盤として、ZDHHC9やABHD17の構造解析を行い触媒機構や基質認識機構を原子レベルで明らかにすることで、シグナル伝達の理解、阻害剤の開発へ貢献することを目的としている。 N-Rasのパルミトイル化酵素ZDHHC9は昆虫細胞および哺乳細胞発現系でタンパク質発現を試み、膜画分から可溶化する界面活性剤の種類・濃度の検討を行った。その結果、アクセサリータンパク質GCP16との共発現時に広範な界面活性剤で可溶化できる条件を確立した。ZDHHC9とGCP16を共発現した細胞の膜画分から界面活性剤で可溶化を行い、アフィニティー精製及びゲルろ過クロマトグラフィーで精製を行った。精製したタンパク質複合体についてクライオ電子顕微鏡での観察を行った。 N-Rasの脱パルミトイル化酵素ABHD17については大腸菌発現系での発現系構築を試みた。ABHD17A, ABHD17Cについて種々のコンストラクトの検討を行った。種々のクロマトグラフィーを用いて高純度の試料を得た。精製したタンパク質について結晶化スクリーニングを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象としているタンパク質について発現および精製を行い、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析またはX線結晶構造解析のためのスクリーニングを行う段階まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
パルミトイル化酵素および脱パルミトイル化酵素との複合体での構造解析のため、基質であるN-Rasの試料調製を行う予定である。特にN-Rasは翻訳後修飾により脂質修飾の1つであるプレニル化されるので、in vitroでのプレニル化反応条件や試料の精製法について検討を行う。基質の調製方法を確立し、次のステップとしてクライオ電子顕微鏡による単粒子解析やX線結晶構造解析に向けた結晶化スクリーニングを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はZDHHC9の構造解析をX線結晶構造解析で行うことを予定していたが、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析へと切り替えたため、解析に必要となる試料の量が減ったため、次年度使用額が生じた。しかし、次年度には基質の調製などの試料調製や生化学実験のための試薬費が想定を上回るため、これに充てる。
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