研究課題/領域番号 |
22K06111
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
谷 一寿 三重大学, 医学系研究科, 産学官連携講座教授 (20541204)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 光合成細菌由来 / コア光捕集複合体 / LH1-RC |
研究実績の概要 |
可視光が届かないような湖底、温泉、海水から身近な田んぼにまで、広い棲息域で適応し高効率の光合成を行っている光合成細菌は、太陽光利用における恰好のモデル生物である。近縁種でも培養温度差や棲息環境が幅広いクロマチア科に焦点をあて、光合成の中心的役割を果たすコア光捕集-反応中心複合体(LH1-RC)の立体構造と機能相関に着目する。これらLH1-RCを比較することで、吸収帯の近赤外領域シフト、至適棲息温度、Caイオン存在/非存在下の安定性、反応中心RCより放出された電荷を伝達するキノン類の移動経路、といった最適化の特徴・仕組みを明らかにすることを目的としている。 当該年度では、クライオ電子顕微鏡を用いて、クロマチア科の1つであるアロクロマチウム・テピダム由来のLH1-RCの立体構造を決定し、journal of biological chemistgry誌上に論文発表した("A Ca2+-binding motif underlies the unusual properties of certain photosynthetic bacterial core light-harvesting complexes", Tani et al., 298:101967, doi:10.1016/j.jbc.2022.101967)。アロクロマチウム・テピダムのLH1サブニットは、アイソフォームに依存してCaイオン結合サイトと非結合サイトをもつ場合に分類される。今回、立体構造を決定できたことで、Caイオンが特異的に結合できる仕組みを明らかにした。また、発見したCaイオン結合に必須なアミノ酸配列の特徴は、Caイオンの結合性が実験的に確認されていない光合成細菌のLH1-RCにもみられることから、広範囲に採用されている可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、クロマチア科の1つであるアロクロマチウム・テピダム由来のLH1-RCの立体構造を決定し、Jounral of Biological Chemistry誌へ発表することができ(doi:10.1016/j.jbc.2022.101967)、Caイオンを特異的に結合できる仕組みを明らかにした。発見したCaイオン結合に必須なアミノ酸配列の特徴は、Caイオンの結合性が実験的に確認されていない光合成細菌のLH1-RCにもみられることから、予想以上に広い菌種で採用されている可能性があることがわかった。また、Caイオンの結合により、アロクロマチウム・テピダムのLH1-RCの熱安定性向上に寄与していることが立体構造の面からも理解することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、光合成紅色細菌クロマチア科ファミリー内の熱安定性の異なる3種に着目して、光捕集系に関与する複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡法にて近原子レベルにて明らかにし、光捕集最適化の謎を解き明かす。 Chromatiaceaeファミリー内で未だ構造未決定であるコア光捕集複合体LH1-反応中心RC立体構造をクライオEMにより決定する。LH1にはα鎖3種類、β鎖3種類のそれぞれの組み合わせが存在するため、Trv.由来LH1-RCを決定した際に開発した解析技術(Nat.communs. 2020)を発展させて、LH1-RCを高分解能で構造決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
急激な円高要因と半導体不足により、計上していた金額での計算機購入が不可能となったが、計算能力を大幅に向上させる新型GPUが登場し、本予算での導入ができたことで、当初の予定通りに研究を遂行することができた。 次年度の差額使用に関しては、令和4年度の結果に基づいた試料調整用機器や新型GPUの追加購入へ充てる計画としている。
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