研究課題/領域番号 |
22K06127
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中嶋 昭雄 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (70397818)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 減数分裂 / TORC1 / オートファジー / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
TORC1(Target Of Rapamycin Complex 1)は,高度に保存されたSer/Thrプロテインキナーゼであり,栄養シグナルや増殖因子から入力をうけてタンパク合成や細胞増殖など主要な細胞機能を制御する。一方,オートファジーは主にTORC1により抑制的に調節され,飢餓やストレス環境での生体高分子などの構成成分の分解・リサイクルおよび細胞内のリモデリングに関わる。本研究では,減数分裂機構の研究に用いられる分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を用いて減数分裂におけるTORC1の調節機構およびオートファジー制御を含めた生理機能について,微視的および分子レベルで解明することを目指す。 研究代表者は,体細胞モデル系においてTORC1制御に関わる複数の上流因子が、減数分裂シグナル依存的なTORC1活性化に必要であり,またそれら分子も減数分裂進行に関わることを明らかにした。さらに,減数分裂期特有のTORC1の細胞内局在について,減数第一分裂前期および減数第二分裂前期それぞれでその局在が増加することを見出した。また,その局在は,TORC1の複合体構成因子の一つを欠失させると変化することを見出し,減数分裂期におけるTORC1の活性制御および生理機能への関与を示唆した。 減数分裂におけるオートファジーの制御について,部分的に正に調節する分子を見出し,オートファジー関連因子との関係性を調べている。一方,減数分裂におけるオルガネラ選択的オートファジーについて解析し,いくつかのオルガネラの分解は減数分裂においても継続され,別のオルガネラはその分解が減数分分裂特有に増加傾向を示し,減数分裂特有のオートファジー機能の可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で,TORC1シグナリングの上流調節因子について,減数分裂シグナル依存的なTORC1活性化との関わりについて目処がつき,今後は,これらのTORC1シグナリング関連分子と減数分裂期特異的に結合するタンパク分子についてプロテオーム解析を進めることが可能となった。また,液胞膜上とは異なる減数分裂特有のTORC1の細胞内局在が特定の減数分裂期に集中してみられること,さらに,その局在かに関与する分子を見出し,TORC1の制御及び生理機能を調べる足掛かりとなることが期待される。 本年度内に解析結果を得ることができなかったが,年度を跨いで次世代シークエンスによるRNAseq解析を行い,TORC1によってRNAの転写調節を受ける幅広い減数分裂特異的遺伝子の存在を見出している。このことは,減数分裂期のTORC1の詳細な生理機能の解明に繋がることと期待できる。 減数分裂期のオートファジーの制御およびオルガネラ選択的オートファジーについて新たな興味深い知見を得ることができた。今後は,その分子メカニズムの解明や,減数分裂におけるオートファジーの生理機能解明に向け新たな展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を受け,次年度は以下の課題を中心に取り組む。 減数分裂期において,TORC1およびTORC1シグナル上流分子に結合するタンパク分子についてプロテオーム解析を行い,得られた結合タンパク質の遺伝子欠損株などを作製し,それらを用いて減数分裂期のTORC1活性制御や機能との関わりについて解析する。減数分裂特有のTORC1の局在の生理的な意義について検討する。また,RNAseq解析で明らかとなったTORC1によってRNAの転写調節を受ける減数分裂特異的遺伝子とTORC1の関係性を調べる。特にそれら遺伝子の中には減数分裂特異的な転写因子が複数含まれており,TORC1によるそれら転写因子の機能制御について解析する。 減数分裂期のオルガネラ選択的なオートファジーについて,関係する分子のプロテオーム解析や遺伝子欠損株を用いることで,分子機構と生理的な役割について解析する。また,減数分裂特異的なオートファジー活性上昇のメカニズムについて,TORC1シグナリングとの関係性を含めて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は他の研究予算から多くの試薬や消耗品を購入できたため,当初の予定より小額で済んだ。また,次世代シークエンスによるRNAseq解析を年度を跨いでおこなったため,その経費が次年度の支払いとなり本年度分は繰越扱いとなった。 (使用計画) 次年度は、年度を跨いでおこなった次世代シークエンスによるRNAseq解析の費用を計上する。さらにTORC1およびTORC1シグナル上流分子,またオートファジー関連分子の結合タンパク質の探索など,プロテオーム解析を行う予定であり,そのための経費を見込んでいる。分裂酵母の遺伝子欠損株の購入及び作製のための費用を見込んでいる。当初の計画通り、実験試薬・消耗品の購入、学会等における研究成果発表のための旅費等への使用を予定している。
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