研究課題/領域番号 |
22K06153
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
生城 浩子 大阪医科薬科大学, 医学部, 講師 (10280702)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セリンパルミトイル転移酵素 / スフィンゴ脂質 / 結晶構造解析 / X線回折 / 知覚神経障害 |
研究実績の概要 |
セリンパルミトイル転移酵素(SPT)はピリドキサール5’-リン酸(pyridoxal 5’-phosphate;PLP)を補酵素としてL-セリンとパルミトイル-CoAの縮合脱炭酸反応を触媒して長鎖塩基を合成する。細菌由来SPTは広範なアミノ酸基質許容性を有し,L-セリン以外にグリシンや L-アラニン,L-ホモセリンをも基質としてデオキシ型長鎖塩基を合成できる。昨年度は細菌SPTがヒトの神経変性疾患関連脂質であるデオキシ型長鎖塩基を合成することを見出し,L-セリン以外の複数のアミノ酸基質の認識様式を構造生物学的手法により解析した。以上の結果を受けて,細菌SPTがD-セリンからも反応生成物を合成することを見出し,細菌SPTのラセミ化活性に注目した。まずSPT反応生成物を蛍光標識し,順相HPLCで分離定量する分析法を確立した。SPT反応生成物には出発基質の立体化学に関わらず,D/L型が等量ずつ含まれていた。そこで,ソーキング法でSPTーD-セリン複合体結晶を調製し,X線構造解析を行ったところ,観測できた電子密度はD-セリン-PLPアルジミンではなく,L-セリン-PLPアルジミン中間体に合致した。SPTーα-メチル-D-セリン二元複合体結晶では,α-メチル-D-セリンはD型の立体配座のままPLPアルジミン中間体を形成してSPT活性部位に保持されていた。SPT活性部位にはD-セリンを結合できる許容性があり,D-セリンが結晶ないでラセミ化したことが確認された。さらに,D/L-セリンとアシルCoA誘導体,SPT精製酵素を組み合わせたSPTによるセリンのα-プロトン解離過程を1H-NMR法を用いて解析した結果,酵素の活性部位でセリンのラセミ化反応が進行すること,D-セリンからキノノイド中間体を経由して生じたL-セリンがアシルCoAと反応して長鎖塩基を生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由:やや遅れている。 研究成果を査読付論文として発表し、関連する学会・研究会で口頭発表・ポスター発表をおこなった。SPT精製の手順と結晶化方法を改良して結晶の質の大幅な改善を達成し,X線回折実験の際の抗凍結処理方法を改善して高分解能の回折データ収集を可能にした。 ところが,結晶化に使ってきた沈殿剤が製造中止になり,入手不可能になった。新たに結晶化条件を探索する必要が生じたため,結晶構造解析実験が非常に遅延している。結晶ができるようになったが,適切な抗凍結処理の条件がまだ見つかっていない。一部の基質誘導体に化学合成に難航しているものがある。 自身と配偶者の両親が急病に倒れ,彼らの介護が始まった最中に正月元旦には能登半島地震にも被災し,実験する時間が著しく奪われた結果,12月以降,予定に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度12月以降研究の進捗の遅れは,親の遠隔介護と能登半島地震被災の影響が大きな理由である。親の病状は予断を許さないが,遠隔介護の体制はかなり整い,地震後の復旧も進んできているので,遅れた実験計画はこれから取り返せると考えている。SPT結晶化試薬の製造中止の影響も深刻だったが,新しい結晶化条件が見つかったので,抗凍結処理の方法を改善を達成して高分解能での構造解析を進められると見通している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由を下記にあげる:(1)結晶構造解析実験が予定よりも順調に進行したために,高価で特殊な結晶化プレートなどの消耗品代の消費が低く抑えられた。(2)購入を予定していた高価な結晶化試薬が製造中止になってしまい購入できなかった。さらに,見つけた代替購入先からの購入価格が非常に安価であった。(3)外部発注した化合物の化学合成が失敗に終わり,料金の支払いがキャンセルされた。 次年度の使用計画:(1),(2)に関しては,製造元の仕度の販売中止によって,別の結晶化条件で結晶を作成することになって,今後は新しい結晶化条件に合わせて,高純度試薬やプラスチック実験器具を別途購入して拡充する予定なので,その支払いに予算を活用する予定である。(3)については,継続して化合物の合成を別の受託先へ依頼しているので,次年度支払いが発生する予定である。
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