研究課題/領域番号 |
22K06156
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
小野 弥子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 副参事研究員 (20392376)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | カルパイン / 骨格筋 / サルコメア |
研究実績の概要 |
本研究課題では、骨格筋細胞特異的に発現するプロテアーゼ、カルパイン3(以下、CAPN3)が時空間的に正しく機能する過程において、局在や構造変化、相互作用タンパク質の役割を明らかにすることを目的としている。本年度は、CAPN3が存在すると報告されているサルコメア内の複数の領域において、新たなタンパク質相互作用と基質候補タンパク質について検討した。 サルコメアの構造タンパク質であるタイチン(Ttn)上には、複数箇所のCAPN3結合部位があるとされる。そのうちの1つN2A領域に欠損を持つTtn遺伝子変異マウス(mdm)では、周辺に結合するタンパク質の発現量が増強される傾向があり、その中にはCAPN3の基質タンパク質となる分子も含まれる。以前にTtn結合タンパク質として同定していたフィラミンAについても同様の傾向が認められることから、相互作用の詳細と、CAPN3による分解を受けるかについて検討した。Ttnとの結合には分子C末端側のIgドメインが少なくとも2つ以上存在することが必要であった。この領域は他のフィラミン分子種とは相同性が低いため、フィラミンAに特異的な性質であると考えられる。一方、CAPN3による分解は、培養細胞での共発現によっては検出できなかった。 また、CAPN3はTtnのC末端領域(M線領域)にも結合するとされるため、その付近に存在する複数のタンパク質について基質となるのかを検討した。その中で、ネブリン(NEB)についてはN末端領域が分解される可能性を見出した。だが、NEBはアクチン繊維の長さ調節に重要なタンパク質であるため、CAPN3がサルコメア構造に関係するのか、新しい疑問点がうまれた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始時点では、CAPN3と共局在する他のタンパク質から、局在に必要な領域を抽出することを目標としていたが、コンストラクト設計や実験系の組み立てが困難であった。そのため、文献情報などをもとに、注目したい分子を絞ったという状況である。フィラミンAまたはNEBの配列を利用して、N2AまたはM線領域に局在するような、CAPN3のモデル基質を作出することができるか、今後の検討課題である。 また、CAPN3タンパク質が翻訳される場所を同定するという目標で、改良型のin situハイブリダイゼーション実験を計画していた。こちらについては、試料となるマウスの作出や実験手技の取得の部分で、想定以上に時間を要した。代替方法はないと考えられるため、継続して行わねばならない。 CAPN3を含む分子間相互作用をイメージとして捉えるためのPLA(Proximity Ligation Assay)法についても、Ttnその他の相互作用分子に対する抗体の組み合わせを検討する作業が完了していないため、今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
CAPN3活性化の検出に用いるコンストラクトの作製。基質側については、今年度の結果をもとに進める。合わせて、これまでに作製した各種CAPN3変異体の性質をもとに、活性化に伴う構造変化を検出するためのタグ配列が導入された変異体をデザインする。野生型CAPN3の挙動を反映できているのかについては、培養細胞での発現実験などによって、自己分解活性、局在、細胞内で既報の基質タンパク質を分解する活性、を指標とする。 CAPN3その他関連分子についてmRNAの発現と組織内での局在を同定するための条件検討を行う。サルコメア構造の形成過程との関係性を解析するためには、マウス筋芽細胞(初代培養系およびC2C12細胞)の筋分化モデルが適していると考えている。より生理的な条件下での挙動を観察するためには、組織レベルで筋再生が促進される系(運動負荷や毒素投与)で、解析に適した試料が得られる条件検討を行う。 CAPN3を中心としたPLA(Proximity Ligation Assay)法による局在解析を実現するため、抗体の確認を引き続き行う。 CAPN3がサルコメア構造に関係するのか、KOマウスの骨格筋についてより詳細な電子顕微鏡での観察を開始した。 従来行われてきたCAPN3KOマウス骨格筋の電子顕微鏡観察のためのサンプル調製法では、アクチン線維システムの異常を見出すことができていない。筋の収縮状態を解除する処置を行った上で、より詳細な電子顕微鏡での観察を行い、CAPN3がサルコメア構造に関係するのか、検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
数点の試薬について、2023年度の実験で使用するように研究計画が変更になったため。
|