研究課題/領域番号 |
22K06158
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茅 元司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00422098)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 筋細胞融合 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究では,以下の2つの研究テーマから筋細胞融合を統合的に理解する.1)機械学習を用いた解析とクラスタリング解析から筋細胞の特徴抽出を行い,さらにその特徴に介在するタンパク質動態の検討から,未分化の筋細胞から融合する細胞になる過程を理解する.2)融合界面における細胞骨格やミオシンの動態観察と力学計測から融合の力学的な機構を理解する. 1)のテーマに関して,当初は機械学習モデルとしてMask-RCNNを用いたが,あまり細胞の検出がうまくいかないことがわかり,様々な細胞のセグメンテーションモデルとして評判の良いCellposeを使ったところ,かなり検出率が上がった.この解析を元に,細胞の大きさ,周囲長,アスペクト比,移動速度などのパラメータを用いた多変量解析とクラスタリング解析を行った.その結果,分化誘導条件下において,5-6種類のクラスターが存在することがわかった.特に融合する細胞が特徴的に属するクラスターが存在し,そのクラスターの特徴は速度が極めて遅く,また細胞面積が大きいことが見えてきた. 従って,融合する細胞と融合しない細胞の特徴を定量評価することができた. 次ステップとして,融合に介在するタンパク質動態観察をする必要があり,有力候補としてアクチンと非筋ミオシンIIを考えいる.特に非筋ミオシンIIはGFPとの融合タンパク質として発現させる必要があるため,バキュロウイルスを用いた発現条件を検討した.その結果,6-7割程度の発現効率で細胞活性も維持される条件を決定できた. 2)のテーマに関して,アクチン線維を蛍光染色し,融合する細胞におけるアクチン線維束の動態観察を行ったところ,ショウジョウバエで提唱されているアクチン線維束の陥入により融合が促進されるような現象は観測されず,別の機構がある可能性が見えてきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマ1)に関しては,当初の計画通り,機械学習モデルによる筋細胞のクラスタリング解析から,分化誘導条件下における筋細胞を数種類のグループに分けすることに成功し,さらに融合する細胞は典型的にあるグループに属することがわかった.こうした結果から,当初の計画通りに機械学習による解析から,融合細胞と融合しない細胞をグループ分けすることに成功したと考えている. また,融合に介在するタンパク質候補として,アクチンと非筋ミオシンIIを考えているが,アクチンは市販の蛍光試薬で染色可能である一方,ミオシンはGFP融合タンパク質として発現させる必要があった.そこで,バキュロウイルスを用いる方法で,細胞へのダメージが低く,かつ比較的発現効率の高い条件が決まったことも順調に計画が進められた点として考えている. 研究テーマ2)に関して,融合の力学機構をタンパク質動態の観察と力学計測から検証していく予定であり,現在はアクチン線維の動態観察からマウス筋細胞の融合機構が,ショウジョウバエとは違う可能性が見えてきた.一方,ミオシンに関しては,上述の通り発現条件は決まったので,今後アクチン線維とともに同時観察を実施していく.細胞融合に際して細胞の発する力を推定するため,基盤の歪みから牽引力を推定するTraction Force Microscopyの準備も進めてきた.基質の歪みを可視化するために,基質にビーズをコートする条件やマトリゲルの濃度などを検討し,現状,扱いが簡便ながん細胞を用いて牽引力を推定できることは確認した.今後は,筋細胞において条件検討していく. 以上,2つの研究テーマを遂行するための進捗状況として,当初の計画通り順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
機械学習モデルを用いた細胞のセグメンテーションから融合細胞の特徴を抽出することができるようになったが,現状の機械学習モデルによる細胞のセグメンテーションでは未だに手作業による修正が必要なため,今後は学習用のアノテーション画像を用意し,さらに検出率の高い学習モデル生成を目指す.また,アクチンと非筋ミオシンIIの蛍光像観察も同時に行い,細胞の大きさ,形,移動速度と共にこれらのタンパク質の蛍光画像の特徴量もパラメータとして取り入れて,クラスタリング解析を行い,融合細胞の特徴とこれらのタンパク質動態の関連性を突き詰めていく. 融合する細胞界面付近におけるアクチンとミオシンのダイナミクスを検証するため,Sir-actinによるアクチン線維の蛍光像とGFP-非筋ミオシンII蛍光像の同時観察を実施し,融合機構を検討していく.また,力学的な観点から融合機構を理解するため,融合する細胞界面における力分布をTraction Force Microscopy(TFM)で検証する.まずは,筋細胞に適した基盤作りの条件検討を行う予定であり,条件決定後はTFMにより細胞界面の力分布から,融合する細胞と融合を受ける細胞における力分布を比較検討し,力学的な融合機構を明らかにしていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,申請者の共焦点顕微鏡におけるGFP観察用に488nmレーザーを購入予定(80-90万円程度)であったが,所属研究機構の共同機器にある共焦点顕微鏡の方が,本研究の目的に適した長期観察に適していることが判明し,こちらを主に使って観察したため,90万円強の次年度使用額が発生した.
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