研究実績の概要 |
本研究の目的は「ATP産生にかかわる分子2種類およびMg2+の3分子同時計測系を構築し、神経細胞内Mg2+濃度変動がATP産生に与える影響を相関解析から推定し、その因果関係を確かめること」である。初年度は、A, 既存のCFP-YFPペアのFRET型センサーの蛍光タンパク質を入れ替え橙色-赤色のFRET型センサーの開発を進めた。また、B, 分散培養したラット海馬神経を、脳内で主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸で刺激した際の細胞内Ca2+, Mg2+濃度変化を測定し、刺激グルタミン酸濃度や神経細胞の成熟とそれらのイオンの濃度変化の関係性について調べた。 A:既存の乳酸センサー、ピルビン酸センサーを基に、蛍光タンパク質を入れ替えたものを複数種類作製し、HeLa細胞に発現させて性能を確認した。乳酸センサーは乳酸濃度変化によりFRET比を大きく変化させるものがなかったが、ピルビン酸センサーでは1つの候補で細胞内のピルビン酸濃度変化に応じたFRET比の変化が確認された。これを橙色-赤色ピルビン酸センサーのプロトタイプとし、今後の性能評価へと進める予定である。また、本研究開始以前から開発していた橙色-赤色ペアのFRET型ATPセンサーについても、性能評価実験および、論文発表の準備を進めた。 B:培養期間の異なる神経細胞を、それぞれ1, 10, 100, 500マイクロMのグルタミン酸で刺激した際の応答を観察した。2週間程度培養し、ある程度成熟した神経細胞では1マイクロMのグルタミン酸であってもMg2+濃度上昇を引き起こすこと、10マイクロM以上では神経細胞死に関連するMg2+濃度減少が起こってしまうことを発見した。これらの結果から、培養1週間程度の未成熟な神経では10~100マイクロM程度、成熟した神経では1~10マイクロM程度のグルタミン酸が刺激に適切であることが分かった。
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