研究課題/領域番号 |
22K06170
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
川鍋 陽 香川大学, 医学部, 講師 (10707128)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 電位依存性イオンチャネル / 電位依存性プロトンチャネル / ATP / 電気生理学 / パッチクランプ |
研究実績の概要 |
前年度、電気生理学的解析により電位依存性プロトンチャネルHv1に対してATPが直接作用することで機能を制御していることを明らかにした。 本年度は、どのような原因でHv1電流がATPにより増強されるのかを定量的に検討した。想定される原因として、①活性化速度の増加、②電位依存性のシフト、③単一チャネル電流の増大、などが挙げられる。Hv1はもともと活性化が非常に遅いことが知られているが(時定数にして~30秒)、ATPにより活性化が速くなることが確認された(時定数:~10秒)。続いて、電位依存性シフトを検討するために、各電位の定常状態電流をプロットしたところ、ATPによる大きな変化は観測されなかった。また、各電位の定常状態電流の値はATPの有無では大きく変動しなかったことから単一チャネル電流にも影響を与えないことが判明した。従って、ATPの効果は、Hv1の活性化速度に影響を与えるものと考えられた。 電気生理学的解析ではATPが直接作用することが示唆されたが、実際に相互作用しているかどうかは検討できない。そこでわれわれは、マイクロスケール熱泳動法(MST)を使用することで直接相互作用を検討した。N末端、C末端を切断した精製Hv1(T57-I224)とATPアナログ(ATP, ADP, AMP, Adenosine)の結合を評価したところ、Adenosine以外で相互作用が確認された。また、その結合の強さは、ATP > ADP > AMP >> Adenosineであった。この序列は、電気生理におけるHv1への効果の強さと同じ傾向であった。つまり、電気生理の結果と総合すると、ATPはHv1に対して直接相互作用をすることで、機能を制御することが判明した。 以上の結果をまとめて、原著論文としてJournal of Physiologyに報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り電位依存性プロトンチャネルHv1のATPの効果の詳細を検討し、直接相互作用を検証した。これらの内容をまとめて論文に投稿・受理されたため、研究実施状況はおおむね順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果から、ATPはHv1に直接相互作用することで効果を発揮することが示された。しかし、相互作用部位の特定までには至らなかった。今後変異体解析などを通して、ATPの相互作用部位の特定を行う一方で、シミュレーションなども組み合わせることでATP作用の検証も行う。 また、電流―蛍光同時リアルタイム計測システムを用いて、細胞内側に導入した非天然蛍光アミノ酸Anapと蛍光ATPアナログとのFRETから、相互作用を検討する実験系も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度でATPによるHv1の効果に対して詳細を明らかにした。今後は、結合サイトを明らかにする解析をするために、培養・精製のための試薬・消耗品、変異体作製のための遺伝子操作試薬・消耗品が必要になってくる。次年度においてはこのような試薬・消耗品購入のために残額を充当する予定である。
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