研究課題/領域番号 |
22K06177
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂田 豊典 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (40795530)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | コヒーシン / ATPase / コヒーシンローダー / 染色体高次構造 / Micro-C |
研究実績の概要 |
コヒーシン複合体は遺伝子の転写制御などの染色体機能と高次構造の制御に寄与しており、in vitro実験系においてはその分子活性も徐々に明らかとなってきている。一方で、コヒーシンが実際に細胞内の染色体上でどのようにその分子活性を発揮して機能しているのかは不明である。そこで、コヒーシンによる転写及び高次構造制御の詳細を調べるため、透過処理したヒト培養細胞において、コヒーシン欠損時の高次構造の解析を行なった。Micro-Cを用いた詳細な解析を行なったところ、透過処理を施した細胞においても一部のクロマチンループは維持されていること、これらのループはコヒーシンに依存することが明らかとなった。また、ATPase変異コヒーシンの局在をChIP-seqで解析したところ、この変異コヒーシンの局在はコヒーシンローダーの結合サイトに極めて限定されていることがわかった。これらの結果から、コヒーシンのATPase活性はローディングサイトからのコヒーシンのクロマチン上での移動に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後はこのsemi-in vivo実験系において、コヒーシン欠損時にNTPsを添加して転写プロファイルを解析する。また、この時のRNAPIIの結合プロファイル及びクロマチンループについてもそれぞれ解析する。さらに、同様の解析をコヒーシン変異型についても行う。また、コヒーシンを欠損させて染色体を”コヒーシンフリー”の状態にした細胞において透過処理を施し、そこにコヒーシン、コヒーシンローダーを含む細胞の核抽出液、またはコヒーシンのリコンビナントタンパク質を添加して、染色体高次構造の再構築を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにヒト培養細胞HCT116において穏やかに透過処理を施し、その状態でATP添加等の処理を行う”semi-in vivo”染色体実験系を構築し、この透過処理を施した状態でもコヒーシン、コヒーシンローダー、RNAポリメラーゼII(RNAPII)は依然として染色体上に結合していることを確認している。そこで、この状態でも染色体高次構造が維持されているか調べるため、Micro-C解析を行なったところ、6656箇所のクロマチンループが検出され、これは透過処理を施していない通常の細胞(14492箇所)の45%程度であった。また、これらのループがコヒーシンに依存するかどうか調べるため、コヒーシンのサブユニット、RAD21を細胞内で速やかに分解して同様の解析を行なった。この分解にはAuxin-Inducible Degron(AID)システムを用いた。このRAD21分解条件下ではクロマチンループは436箇所しか検出されず、およそ93%以上のループが失われていた。これらの結果から、透過処理を施した細胞においても一部のクロマチンループは維持されていること、これらのループはコヒーシンに依存することが明らかとなった。さらに、細胞内の染色体におけるコヒーシンのATPase活性の役割を明らかするため、コヒーシンのATPaseサブユニット、SMC1をATP非結合型(K38A)と非加水分解型(E1157Q)の変異型に置換してこれらの変異コヒーシンの局在をChIP-seqで解析した。その結果、これらの変異型においてはコヒーシンの局在が激減しており、残っている結合サイトはコヒーシンローダーの結合サイトとよく一致することがわかった。これらことから、コヒーシンのATPase活性はローディングサイトからのコヒーシンのクロマチン上での移動に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の点について明らかにしていく。 1)コヒーシンによる転写と高次構造の制御を明らかにするため、ヒト培養細胞を穏やかに透過処理したsemi-in vivo実験系において、コヒーシン欠損時にNTPsを添加した場合の転写プロファイルをPRO-seqで解析する。また、この時のRNAPIIの結合プロファイル及びクロマチンループについてもChIP-seq、Micro-Cでそれぞれ解析する。さらにこれらのデータを統合的に解析し、コヒーシンの転写反応への影響とそれと連動する高次構造の変化を明らかにする。 2)コヒーシンのATPase活性が果たす役割についてさらに明らかにするため、コヒーシンのATPaseサブユニット、SMC1を変異型に置換し、semi-in vivo実験系において1)と同様に転写と高次構造への影響をRNAPIIのChIP-定量PCRと3C-定量PCRでそれぞれ解析する。これらの解析により、コヒーシンが染色体上で種々の機能を発揮するときに、ATPase活性がどのプロセスで使用されているのか、その詳細を明らかにする。 3) コヒーシンが細胞内の染色体高次構造を構築する上で必須の因子について解析を行う。内在のコヒーシンを分解したコヒーシンフリーのsemi-in vivo実験系の染色体を用意し、ここにコヒーシン、コヒーシンローダーを含む細胞の核抽出液及びATPを添加することで、染色体高次構造の再構築を試みる。染色体高次構造についてはコヒーシンのMicroChIPで確認する。これで再構築できた場合、次に核抽出液ではなく、組換えタンパク質のコヒーシン、コヒーシンローダー、ATP及びヒストンシャペロン等の他のクロマチンタンパク質を添加して同様に高次構造が再構築できるかを調べる。
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