研究課題/領域番号 |
22K06183
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
増本 博司 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医歯薬学総合研究系), 講師 (80423151)
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研究分担者 |
仁木 宏典 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 教授 (70208122)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遺伝子転写 / 遺伝子サイレンシング / クロマチン構造 / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
Long terminal repeat (LTR)型レトロトランスポゾンである出芽酵母Ty1に存在する遺伝子サイレンシングを引き起こす配列:GAGsiは、Ty1内部のGAG遺伝子内部に存在する。この配列はTy1 mRNAの短いバリアント型であるTy1iの転写開始点でもある。遺伝子のプロモーター領域ではヒストン末端のアセチル化とヒストンH3の4番目のリジンへのトリメチル修飾(H3K4me3)、遺伝子のコード領域ではヒストンH3K36me3, H3K79me3の二種類のメチル化修飾が顕在することで、クロマチン構造が大きく分かれる。GAGsiの主要な機能は、GAG遺伝子内部にプロモーター領域と遺伝子コード領域特有のクロマチン構造を形成するクロマチン境界を形成し、Ty1遺伝子の転写制御因子が結合配列を認識・結合できるプロモーター領域特有のクロマチン領域を形成することにある。またGAGsi内部に存在するinverted repeat(IR)配列は、GAGsiのサイレンシング効果に必要なだけでなく、GAGsi上流域にプロモーター領域特有のクロマチン構造を形成するのに必要であった。今回はGAGsiのIR配列への変異によってTy1自体の転写活性が減衰することを確認したが、Ty1i自体の転写に関与するかについては不明である。 GAGsiのサイレンシング効果に必要な因子として単離したDNA修復因Esc2, Rad57は、Ty1クロマチンの高次構造の形成に必要なだけでなく、Ty1自体の転写にも必須であった。さらにこの二つの因子はTy1の転写制御以外の機能として、元来転写活性が高い遺伝子領域に結合し、過剰に導入されたRNAポリメラーゼを排除する。この機能は転写が特定の遺伝子群に偏るのを防ぎ、RNAポリメラーゼを中心とした転写複合体がゲノムワイドに配置されるのに寄与している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではGAGsiのサイレンシング効果を生み出す因子としてEsc2, Rad57以外の因子について再度スクリーニングを行ってきた。しかしながら単離した因子群(Msc3など)はGAGsiのサイレンシング効果に影響を与えるも、GAGsi周辺のクロマチンへの結合が明らかにならなかった。GAGsiのサイレンシングにおける単離した因子群の機能は、クロマチン構造への変化ではなく、より間接的なものであり、現在解析方法を検討している。 Rad57, Esc2はTy1のサイレンシング効果だけでなく、Ty1自体の転写制御に関与していることを明らかにした。この解析を通じてEsc2, Rad57が恒常的に転写の活性が高い遺伝子の転写を調節する機能を持っていることが明らかになり、その解析のためにGAGsiの研究の進行が遅延した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はGAGsiの遺伝子サイレンシングを遂行する機構の解明として、続けてその制御因子を決定するだけでなく、下記の研究を計画している。 1.GAGsiはその上流をプロモーター領域、その下流を遺伝子のコード領域として分けるクロマチン境界として機能する。この機能は、通常サイレント化されているレトロトランスポゾンが自身の転写を積極的に行うために、その上流部分に転写因子が結合できるプロモーター領域を形成するのに必要である。この機能が他の生物種のレトロトランスポゾン、特に常時転写が活性化されているヒトLine-1などにも存在している可能性がある。様々な生物種のゲノム情報を検索し、レトロトランスポゾン内部にIR配列を特徴としたGAGsi配列が存在し、サイレンシング効果を発揮するのか、その効果は生物種を超えて、つまり出芽酵母に移植しても同じようなサイレンシング効果を発揮するのか検証していく。 2.GAGsiドメインは、1. サイレンシング効果は下流方向のみ、2. 上流から来る転写フォークの通過によってそのサイレンシング効果を失うが、転写フォークの進行停止によってサイレンシング効果が復活する、という特性がある。この特性を生かし、遺伝子の転写をGAGsiによって制御する技術を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿していた論文の掲載料の支払いが2023年度に生じる可能性があり、その支払い料を確保するために必要であった。2024年度中に投稿料として使用予定。
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