研究課題/領域番号 |
22K06184
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
島田 友裕 明治大学, 農学部, 専任准教授 (10535230)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ゲノム転写制御 / 転写制御ネットワーク / 機能未知転写因子 / Genomic SELEX法 / グリコーゲン代謝 / GgaR / YegW |
研究実績の概要 |
ゲノム塩基配列の決定が進み、生物のもつ遺伝子の全体像が明らかとなった次の研究目標は、生物が遺伝子を利用する仕組みの全体像の理解である。本研究では、生物が遺伝子を利用する仕組みの全体像を理解するために、大腸菌をモデル生物とし、支配下遺伝子や機能が全くの不明な大腸菌の機能未知転写因子約70種類の機能解析を行っている。機能未知転写因子の制御機構や生理的意義を理解することで、新たな微生物の仕組みの解明につながる。 機能未知転写因子の多くは実験室条件下では機能していないためにin vivo系における機能同定が極めて困難である。そこで、申請者が独自に開発したin vitroにおいて転写制御因子のゲノム上認識結合領域を直接的に同定するGenomic SELEX法(gSELEX法)を用いて、転写制御因子の直接的な支配下遺伝子群を網羅的に同定することにより、その支配下遺伝子群の機能情報を基盤とした転写制御因子の制御ネットワークの役割から、機能の同定を試みる戦略をとっている。gSELEX法は精製タンパク質を必要とするため、これまでに機能未知転写因子のタンパク質の精製および合成を行い、gSELEX法によりゲノム上の結合領域の網羅的な同定を試みた結果、新たに10種類以上もの機能未知転写因子の標的配列の同定に成功した。これらについては現在、個別に標的遺伝子群への制御の実証およびその生理的意義について解析している。 その中でも、研究期間3年間の2年目にあたる2023年度は、大腸菌の機能未知転写因子YegWの解析に注力した。その結果、YegWの機能は、ADP-グルコースを感知し、グリコーゲン蓄積を抑制化すること、であることを明らかとした。これらの結果から、YegWをGgaR(repressor of glycogen accumulation)と命名することを提案し、原著論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
解析対象である機能未知転写因子約70種類について、タンパク質の精製または合成を行い、それらすべてについてgSELEX解析を実施した。併せて、機能未知転写因子の細胞内におけるゲノム上結合領域を同定するためのChIP (chromatin immunoprecipitation)法も併用した。その結果、10種類以上の機能未知転写因子について、その制御標的の網羅的な同定に成功した。 2023年度はさらに、グリコーゲン代謝遺伝子群を制御していると推測された機能未知転写因子YegWの機能解析に注力した。ゲノム転写制御ネットワークの解析結果からYegWはyegTUVオペロンを唯一の標的としているSingle target regulatorであることが示唆された。これらの標的遺伝子にはグリコーゲンの蓄積に関与することを示唆する知見があったため、大腸菌細胞を用いてYegWによる様々な影響を観察したところ、yegW欠損株ではyegTUVオペロンの発現量が上昇し、グリコーゲン蓄積量が増加していることが分かった。また、YegWがグリコーゲンの前駆体であるADP-グルコース存在下で不活性型になることを見出した。興味深い点として、グルコース単一炭素源培地においてyegWを欠損することにより、大腸菌の生育は低下した一方で、細胞増殖中にもかかわらずグリコーゲンの蓄積量が増加していることが分かった。このことはYegWが、糖を細胞増殖のために消費するか、グリコーゲンとして蓄積するか、を判断する役割を担っていることを示唆している。元来、グリコーゲンの蓄積は、細胞増殖の停止により起こるとされてきたが、本研究成果により、糖の量に応じて引き起こされる制御機構が明らかとなった。本研究成果から、YegWをGgaR (repressor of glycogen accumulation)と命名し、原著論文として報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
gSELEX法により明らかとなった機能未知転写因子の制御ネットワークについて、支配下遺伝子群への制御の実証および生理的意義を引き続き解析する。具体的には、YegW以外の機能未知転写因子においても、中心炭素源代謝遺伝子群を制御しているもの、細胞分裂遺伝子群を制御しているもの、バイオフィルム形成遺伝子群を制御しているもの、などの新規な転写制御ネットワークの存在が示唆されている。いずれもこれまでに報告のない新たな転写制御ネットワークの存在を示唆するものであり、機能解析を継続する。 また、gSELEX法で合成タンパク質を用いたがゲノム上結合領域を同定できなかった一部の転写因子については、合成した転写因子が不活性型であったことが考えられる。活性型にするためにはエフェクターやリガンドといった化合物が必要である可能性があるため、様々な化合物が存在する細胞内で発現させて精製したタンパク質を用いることで、in vitro条件下であるgSELEX法が機能するかもしれない。このような転写因子については、細胞内から精製し、再度gSELEX法による標的遺伝子群の同定を試みる。また、並行して細胞内における転写因子のゲノム上結合領域を同定するためのChIP法の実施も検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質の精製や合成を計画していたが、当初計画していたよりも消耗品の使用が少なく達成できたために、残額が生じた。代わりに次年度以降の遺伝子発現解析や表現型の解析に使用する予定である。
|
備考 |
所属機関からのプレスリリース
|