研究課題/領域番号 |
22K06210
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
日詰 光治 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (10378846)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | DNA複製 / ヌクレオソーム / クロマチン / ヒストン |
研究実績の概要 |
DNA複製に伴い、鋳型鎖ヒストンを新生鎖で再利用するヒストンリサイクルが行われる。本研究ではヒストンリサイクルの生化学的再構築を目指す。とりわけ、(1)鋳型鎖からヒストンを受け取って保持し、(2)そのヒストンを新生鎖のヌクレオソーム形成に供する、という二つのステップを各々測定するアッセイ系を開発することを目指す。 まず、ヒストンシャペロンと考えられている複製ヘリカーゼ複合体のサブユニットMcm2のN末端領域(ここではMcm2Nとよぶ)を、任意のDNA領域に固定する手法の確立を目指した。いくつかの方法を試した結果、最終的に、Mcm2NをLexAとの融合タンパク質として精製して、SOS-Box領域をもつDNAと結合させることで、安定に領域特異的なDNA-Mcm2N結合を確立した。来年度以降は、この系を用いて、Mcm2Nを固定したDNA領域周辺に対するヒストンローディング(すなわちヌクレオソーム形成)について、検討する。 Mcm2Nは複製フォークの進行の方向において、もっとも前方に位置するため、解離した鋳型鎖ヌクレオソームから放出されたヒストンに最も初期にアクセスすると考えられる。Mcm2Nが捕捉したヒストンは、より新生鎖に近接する複製フォーク後方の因子に受け渡され、最終的に新生鎖に結合すると考える。したがって、Mcm2Nが結合したヒストンタンパク質をどの因子に受け渡すか、生化学的な競合実験で試した。Mcm2Nとヒストンとを結合させておき、そこにDpb3-Dpb4などのヒストンシャペロン複製因子を加える実験を行っている。これまでに、加える因子依存的に、Mcm2Nとヒストンとの結合が促進/阻害される様子が予備的に検出されているため、来年度以降、さらに詳細な解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒストンリサイクルの生化学的再構成系の確立の第一歩として、DNA上にヒストンシャペロン複製因子を固定する系の開発に着手した。当初は、強固な固定を目指し、ビオチン‐アビジンを応用した方法や、LacI-LacOを応用した方法を試したが、Mcm2Nとアビジンとの融合タンパク質が大量発現系において凝集を起こすなどの不具合が生じた。最終的にLexA-SOS Boxを応用した方法によって、安定してDNA上にMcm2Nを固定することに成功したが、やや進捗が遅れた。また、Mcm2Nがヒストンを捕捉し、Mcm2N-ヒストン結合を確立したのち、そのヒストンを利用してヌクレオソームを形成させる反応を再現しようとしたが、未だ成功していない。これを成功させるために必要なタンパク因子を同定するために、候補となるタンパク質の発現・精製に着手している。 以上の事情により、当初の予定通りには進捗していないが、改善策を講じ、既にそれに着手している。すなわち、現在までの進捗状況は、やや遅れていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
DNAにMcm2Nを固定する条件は2022年度に確立したため、このMcm2Nにヒストンを捕捉させ、そのうえでMcm2N近傍にヌクレオソームを形成させる(捕捉しているヒストンを供給する)条件を特定する。そこに必要な因子は何か(FACTやCaf1が必要か)、ヌクレオソームが形成された場合は、固定したMcm2Nの位置から何 bp の範囲にヌクレオソームが形成されるのかなど、ヒストンリサイクル因子としてのMcm2Nの特徴を明らかにする。 また、DNAに固定したMcm2Nの傍らにヌクレオソームを形成させ、そのヌクレオソームを解離させたときに遊離したヒストンをMcm2Nが捕捉する条件を特定する。Mcm2Nからヌクレオソーム形成位置の距離、他の因子の有無が捕捉効率に与える影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質精製の効率化のためUVモニターを購入する予定にしていたが、今年度実施したタンパク質精製において、溶出するフラクションはおおむね予想することができる試料に集中したので、購入を見送った。この代わりに、次年度以降、クロマトグラフィー以外にも使用できる簡易型吸光度系の購入を検討している。 また、学会参加のための出張を当初は予定していたが、COVID-19の感染予防のため参加を見送った。次年度以降、参加を検討したい。 その他、消耗品の使用量は、当初の見込み額よりやや少額となったものの、おおむね予定通りの使用額であった。
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