研究課題/領域番号 |
22K06216
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高稲 正勝 群馬大学, 未来先端研究機構, 助教 (20573215)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プリン新規合成 / PRPP amidotransferase / 相分離 / TOR複合体 / 細胞内顆粒 |
研究実績の概要 |
プリンヌクレオチド(以下プリン)は広汎な活動に関与する重要な代謝産物である。環境中のプリン塩基が欠乏すると、細胞はプリン新規合成経路を活性化する。しかしプリン新規合成の制御機構は驚くほど未探査のままであった。予備実験から、プリン新規合成の律速酵素PPATがプリン塩基欠乏環境において、ラパマイシン標的タンパク質複合体1(TORC1)の作用により、細胞内顆粒を形成することで活性化し、プリン新規合成を促進することが示唆された。そこで本研究ではPPAT顆粒形成の分子機構の解明を目指す。 令和4年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)酵母細胞内PPAT顆粒の性状解析:顆粒の動態を詳細に経時観察した。環境中のプリン塩基が枯渇してから数分後には顆粒が形成され始め、約40分で個数がピークに達した。PPAT顆粒を持つ細胞をプリン塩基存在下に移すと10分以内に顆粒が消失した。また顆粒は1, 6-ヘキサンジオール処理により消失したため、PPAT顆粒は液体状の性質を持つことが示唆された。 (2)PPAT顆粒形成に関わる遺伝子の同定:TORC1関連因子の遺伝子破壊株37株におけるPPATの顆粒形成効率を計測した。その結果、TORC1の下流でリボソーム生合成の促進に関与する転写因子Sfp1と脱リン酸化酵素Sit4の遺伝子破壊株において、顕著なPPAT顆粒形成効率の低下が確認された。またリボソーム生合成を薬剤により阻害したところ、PPAT顆粒形成が抑制された。 (3)酵母細胞内代謝産物の質量分析による定量:環境中にプリン塩基が存在すると、PPAT顆粒形成は抑制される。従って環境のプリン塩基により量が変動する代謝産物によって顆粒形成が制御される可能性が示唆された。そこで代謝産物量を質量分析で解析したところ、環境中のプリン塩基の有無によって、細胞内含有量が数倍から数十倍変化する代謝産物が複数同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題の目的は、申請者が発見したPPAT細胞内顆粒形成の分子機構と生理機能を明らかにすることである。今年度の上記結果(1)よりPPAT顆粒は外界のプリン塩基濃度に鋭敏に応答して、形成と消失を繰り返す、動的な構造体であることがわかった。さらにPPAT顆粒は液体の性質を持つため、細胞質内でのタンパク質の相分離によって形成されると示唆された。また上記結果(2)からTORC1の下流におけるリボソーム生合成がPPAT顆粒形成に必要であると判明した。実際にTORC1はリボソーム濃度を調節して、細胞質の分子混み合い効果による相分離を制御することが報告されており(Delarue et al., 2018)、今回の結果は先行研究の結果と合致する。上記結果(3)からは環境中のプリン塩基に応じて、細胞内代謝産物量が変化することが確認された。 以上の結果から、PPAT顆粒は細胞質の分子混み合い効果を原動力とする相分離によって形成され、プリン塩基存在下では特定の代謝産物との相互作用により、顆粒形成が抑制される、という仮説が考えられた。 よって現在までに得られた研究成果は本研究課題の研究目的に則して、概ね順調な達成度であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに細胞内相分離と細胞内代謝産物濃度変化により、PPAT顆粒形成が制御されることを示唆する結果が得られている。今後は代謝変異株を利用して、どの代謝産物がPPAT顆粒形成に影響するかを検証する。 全体的に研究は順調に進展しているものの、当初計画していた近位依存性ビオチン標識法による、PPAT顆粒と相互作用するタンパク質の探索に関しては実験が遅れている。これはPPAT特異的にビオチン化されるタンパク質群は検出されたものの、それらの中で、顆粒が形成されるプリン塩基欠乏状態特異的にビオチン化が変動するタンパク質の同定に至っていないためである。今後実験条件の最適化により、そのようなタンパク質が同定できる可能性もあるが、バックアップ実験としてPPATタンパク質を精製し、in vitroで顆粒を再構築する実験を進める。 もし精製したPPAT単独でin vitroにおいて顆粒様構造を形成するならば、PPAT分子の自己会合能が顆粒形成の「十分条件」である。この場合、上記の顆粒相互作用因子の探索により、顆粒形成に必要な因子を同定する必要性が無くなる。またもし精製したPPATが単独で顆粒様構造を形成しない場合は、当初の予想通り、他の因子が顆粒形成に必要であることが示唆される。その場合は精製PPATタンパク質をリガンドとするアフィニティカラムを作成して、細胞抽出液からPPATと結合するタンパク質を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は設備備品「電動ステージセット」の購入を予定していたが、価格改定により当初の見積もりより高額になったため購入を見送った。予算に余裕ができれば、今年度に購入する予定である。
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