生体のバリアとして機能する上皮組織は、上皮細胞が密に接着して作られるシートから成る。アポトーシスを起こした細胞はその完全性を脅かす存在であり、隣接する細胞により速やかに排除される。そして、取り囲む細胞が接着を再構築することでバリアの完全性は間断なく持続する。このような即時型の応答に加え、上皮シートの欠損部位の近傍では増殖を活発化させ細胞死を抑制することで定常状態の細胞密度を回復し、上皮組織の恒常性が保たれる。これらの現象においては、隣接した上皮細胞におけるカルシウムイオンの上昇やERKの活性化が関与することが報告されていたため、カルシウムイオンの上昇をモニターするGCaMPやERKの活性化をモニターするERK-KTRを発現する上皮細胞株を樹立し、レーザー照射によってアポトーシス細胞を誘導した後に、上皮細胞シートにおいて観察されるカルシウムイオンやERKの活性化の空間的・経時的変化について観察を行った。その結果、先行研究によって報告されてきたギャップジャンクションを介したカルシウムイオンの伝播機構や、アポトーシス細胞から放出されるS1PやATPなどの液性因子によるERKの活性化機構とは異なり、持続的なカルシウムイオンの周期的上昇やERKの持続的な活性化が観察された。
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