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2022 年度 実施状況報告書

LINC複合体による、核膜を介したメカノトランスダクション分子メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K06227
研究機関愛媛県立医療技術大学

研究代表者

松村 美紀  愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 教授 (00380254)

研究分担者 矢野 弘子  愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 助教 (80518762)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードLINC 複合体 / ゴルジ体 / 核膜
研究実績の概要

細胞は、細胞外基質や隣接する細胞から物理的圧力を受ける。このような外的な力は、核に伝達され、胚発生や細胞分化、がんの進展など、細胞の運命決定に大きな影響を与える。また近年、力の受容に関する研究が進み、核が力学刺激を受容するメカノセンサーとして機能することが明らかになってきた。力学刺激を核へ伝達するメカニズムとして、核膜孔を介した力学刺激依存性のタンパク質輸送による伝達経路が広く知られている。このような力学刺激伝達経路に加えて、2枚の核膜をともに貫通するLINC複合体も、核内への力学刺激の伝達に機能することが明らかになってきている。さらに、LINC複合体が核膜孔を介した物質輸送を制御することや、LINC複合体およびその関連因子が、機械的ストレスのかかる組織において筋ジストロフィーや心筋症などの発症に関与することが示されてきた。しかし、LINC複合体がどのように力学刺激を核へ伝達するのか、その分子メカニズムは未解明である。そこで、本研究では、LINC複合体が、どのように核膜をまたぐ力学刺激の伝達に機能するのか、その分子メカニズムの解明を目指す。
これまでに、私たちはLINC複合体が細胞運動に必須であること、ゴルジ体構築にも寄与することなどを見出していた。これらの結果は、LINC複合体が、既知の力学刺激の伝達経路とは逆方向、つまり核から細胞骨格への力学情報の伝達にも寄与することを示唆する。そこで本年度は、LINC複合体が細胞力学作用に担う機能を解析することにより、LINC複合体が、細胞膜から核への力学刺激の伝達だけでなく、細胞骨格を利用して、核と細胞質(あるいは核と細胞膜)の間において双方向性の力学情報の伝達に機能していることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究では、1)LINC複合体が力学情報を伝達する分子メカニズムの解明、2)LINC複合体による、核から細胞質への情報伝達経路(inside-out情報伝達)の解析、3)情報伝達経路間クロストークの解析、3つの計画をたてており、初年度は、1)、2)を中心に解析した。
1) 免疫沈降においてLINC複合体構成因子とヒストンの共沈降を確認している。コムギ胚芽無細胞タンパク質合成システムを利用することにより全長のLINC複合体構成因子のタンパク質の合成が可能である。そこで、それらタンパク質を用いてヒストンとの相互作用を再現し、複合体形成を制御する因子を探索する予定である。しかし、リコンビナントタンパク質を利用した系ではタンパク質間の相互作用が確認できておらず、やや遅れているとした。
一方、2)は概ね順調に進んでおり、LINC複合体は、細胞膜から核への力学刺激の伝達だけでなく、細胞骨格を利用して、核と細胞膜の間において双方向性の力学情報の伝達を担っていることを明らかにした。細胞外からの力学刺激は、細胞接着班-アクチン骨格-LINC複合体を経て、細胞核に伝達される。私たちはLINC複合体が細胞力学作用に担う機能を解析したところ、LINC複合体構成因子であるSUN1が細胞牽引力の発生に必須であることを見出し、さらにSUN1は、アクチン繊維の構築、vinculinやzyxinの細胞接着班への組み込み、integrin β1の活性化にも必須であり、接着班の成熟にも関与することを明らかにした。また、LINC複合体によるゴルジ体構築の制御はヒストンの翻訳後修飾により調節されることも明らかにした。これらの結果は、LINC複合体が相互作用するクロマチンの構造変化など、核内の力学情報を細胞骨格へ伝達することを示すものである。

今後の研究の推進方策

令和5年度以降も引き続き、1)LINC複合体が力学情報を伝達する分子メカニズムの解明に取り組んでいく。具体的には、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成システムを利用し、全長のSUN1およびSUN2を合成する。これらとnesprin1-4 のSUN結合ドメインの合成ペプチドを用いて、種々の組合せのLINC複合体を形成し、ゲルろ過等で確認する。さらに、ヒストン等の相互作用因子が複合体形成に与える影響および複合体形成の定量化解析を行う。また、ヒストンの翻訳後修飾がLINC複合体との相互作用に重要であることを見出しているため、関与が見込まれるヒストン修飾酵素をコムギ胚芽無細胞タンパク質合成システムを用いて合成し、ヒストンの翻訳後修飾がLINC複合体形成に与える影響を解析する予定である。
細胞内外の力学情報は、細胞応答に極めて重要な意味を持つ。そのため細胞骨格から核への力学情報の伝達に関して多くの研究が進められてきた。それに対し、本研究は、クロマチン構築やヒストン修飾の変化など核内の力学情報に依存して、LINC複合体が核機能と細胞骨格機能をコーディネートするメカニズムの解明を目指している。また、LINC複合体構成因子は、ある種の筋ジストロフィーや早老症など一連の重篤な遺伝性疾患の原因遺伝子である。そのため本研究で得られる成果は、それら疾患の発症機序の解明、治療法の開発へ繋がる可能性が高い。加えて、核膜には100種類以上の膜タンパク質が発現するため、本研究により明らかになる核膜タンパク質による力学情報伝達システムは、膨大な情報伝達経路、則ち核膜における情報伝達ネットワークを見出す糸口となると予想する。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] The linker of nucleoskeleton and cytoskeleton complex is required for X-ray-induced epithelial-mesenchymal transition.2023

    • 著者名/発表者名
      Imaizumi H, Minami K, Hieda M, Narihiro N, Koizumi M.
    • 雑誌名

      Journal of Radiation Research

      巻: 64 ページ: 358-363

    • DOI

      10.1093/jrr/rrac104.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Inner Nuclear Membrane Protein, SUN1, is Required for Cytoskeletal Force Generation and Focal Adhesion Maturation.2022

    • 著者名/発表者名
      N. Ueda, M. Maekawa, T.S. Matsui, S. Deguchi, T. Takata, J. Katahira, S. Higashiyama, M. Hieda
    • 雑誌名

      Front Cell Dev. Biol.

      巻: 10 ページ: 885859

    • DOI

      10.3389/fcell.2022.885859.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The LINC Complex Assists the Nuclear Import of Mechanosensitive Transcriptional Regulators2022

    • 著者名/発表者名
      T. Takata, M. Matsumura
    • 雑誌名

      Results Probl Cell Differ

      巻: 70 ページ: 315-337

    • DOI

      10.1007/978-3-031-06573-6_11.

  • [学会発表] X 線照射が誘発する上皮間葉転換にはLINC 複合体構成因SUN1が必要である2023

    • 著者名/発表者名
      今泉大将、皆巳和賢、檜枝美紀、小泉雅彦
    • 学会等名
      第23回癌治療増感シンポジウム
  • [学会発表] LINC複合体は核内のヒストン修飾状態に応答して、ゴルジ体構築を制御する2023

    • 著者名/発表者名
      西野海夢、檜枝美紀
    • 学会等名
      第95回日本生化学会大会
  • [学会発表] The LINC co,plex and Cancer2022

    • 著者名/発表者名
      Miki Matsumura
    • 学会等名
      第74回細胞生物学会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] ラズベリーケトンの骨芽細胞分化促進おけるグルタミン酸受容体の 関与について2022

    • 著者名/発表者名
      高田智世,矢野弘子,檜枝美紀,森本千恵
    • 学会等名
      第16回生物試料分析科学会中国四国支部学術集会

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公開日: 2023-12-25  

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