研究課題
繊毛基部に発現するTRPチャネルのひとつであるTRP11が、クラミドモナスの機械反応に関与するかを調べた。本年度の成果は以下の通りである。(1) 野生型クラミドモナスをガラスピペットに保持し、繊毛根本を微小ガラス棒でたたき機械刺激を与えると、繊毛の打ち方が前進型から後退型に変換した。外液のカルシウムイオン非存在下とTRP11ノックアウト株ではこの反応は起こらなかった。(2) 細胞にVoltexにより振動を与えると野生株では繊毛打頻度が高くなるが、TRP11ノックアウト株では高くならなかった。(3) 細胞懸濁液をホモジナイザーにかけて剪断力を与えると、多くの細胞の繊毛が抜けた。この反応は外液のカルシウム濃度を上げると増強され、TRP11ノックアウト株では起こらなかった。(4) クラミドモナスには、遊泳以外にグライディングという固相表面に繊毛を付着させて滑る運動様式がある。グライディングするときは繊毛の先端に向けて滑る力が発生するが、クラミドモナスの2本の繊毛が180°逆向きに付着しているときは、2本の繊毛が逆向きの力を出しているため、綱引き状態になって細胞は動かない。片方の繊毛で繊毛内カルシウムイオン濃度が高くなるとその繊毛が力を出すのをやめ、力を出している他方の繊毛の方向にグライディングが開始する、というモデルが提唱されている。TRP11ノックアウト株では、2本の繊毛を付着させたままグライディングする細胞はなかったので、TRP11の機械受容によりカルシウム流入が起こると推察される。以上の4つ実験により、繊毛根本にあるTRP11が、さまざまな機械反応を引き起こしていることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、本年度では以下の3つの計画があった。(1) TRP11ノックアウト株を用いて、TRP11が関与する機械反応を明らかにする:究実績の概要にあるように、この計画は完了することができた。(2) 電気生理学的手法により、TRP11が引き起こす電気生理学的現象を測定する:この計画は本年度で始め、来年度以降も継続する計画である。本年度では、微小ガラス棒で繊毛根元に機械刺激を与えることができるようになり、機械受容電流を測定できるようになった。(3) TRP11への変異導入や相互作用タンパク質の解析により、TRP11の作動の分子メカニズムを解明する:この計画も本年度で始め、来年度以降も継続する計画である。本年度の研究により、変異TRP11遺伝子の作製と、変異TRP11発現クラミドモナスの作製をすることができた。生理的実験のデータも出つつあり、本実験手法が有効であるとの成果が出ている。以上のように、当初計画通りに研究は進んでいると言える。
本研究の3つの実験についてそれぞれ推進方策を述べる。(1) TRP11ノックアウト株を用いて、TRP11が関与する機械反応を明らかにする:論文を投稿する。(2) 電気生理学的手法により、TRP11が引き起こす電気生理学的現象を測定する:実験手法はほぼ確立したので、機械刺激、外液のイオン組成、電極の保持電位などのパラメーターを変え、基本的な性質を明らかにするところから始める。(3) TRP11への変異導入や相互作用タンパク質の解析により、TRP11の作動の分子メカニズムを解明する:すでにいくつかの変異TRP11発現クラミドモナスを得ているので、その解析を進める。さらに多くのタイプの変異TRP11発現クラミドモナスを作製し、分子メカニズムの解明を進める。
発注を予定していた機器の納期が年度を超えることが分かったため、次年度の発注に回した。
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