研究課題
繊毛基部に発現するTRPチャネルのひとつであるTRP11が関与する機械反応の研究をすすめた。昨年度までの成果をiScience誌に発表した。(1)せん断応力への反応:クラミドモナスにホモジナイザーによりせん断応力を与えると、脱繊毛が起こる。せん断応力を定量的に与えるためにcone and plate型の粘度計でせん断力を与えた。その結果、0.5 Pa以上のせん断応力で脱繊毛が起こることが分かった。さらに、TRP11ノックアウト株では脱繊毛が起こらないので、TRP11による機械反応であることが分かった。(2)変異体を用いたTRP11の分子機構の解明:TRP11の膜貫通部位とTRPヘリックスにある残基をそれぞれアラニンに置換した点突然変異体をTRP11ノックアウト株に発現させ、せん断応力への反応の有無でそのTRP11変異体が機械反応を引きおこすことができるかを検討した。その結果、イオン透過孔を形成すると推定される残基をアラニンに置換すると、TRP11の機能が失われることが分かった。したがって、TRP11がイオンチャネルとしての機能を持つことが確実となった。一方、TRPヘリックスに変異を入れても機能には影響がなかった。(3)電気生理学的解析:機械刺激が与えられたときにTRP11が発生する電流を測定することを目的に、細胞をパッチ電極で吸い付け、ピエゾ素子で動くガラス棒で細胞前端をたたく機械刺激を与えた。その結果、刺激の大きさに応じて大きくなる電流が測定された。この電流はTRP11ノックアウト株では観察されなかったので、TRP11が発生する電流と思われる。以上の3つ実験により、繊毛根本にあるTRP11が、せん断力への反応に関与していることと、機械刺激により受容器電流を発生していることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、本年度では以下(1)と(2)の2つの計画があった。(1) 電気生理学的手法により、TRP11が引き起こす電気生理学的現象を測定する:本年度では、微小ガラス棒で繊毛根元に機械刺激を与えることができるようになり、刺激・反応曲線が得られるようになった。TRP11ノックアウト変異体ではこの電流が発生しないことが明らかになった。当初計画通りに進んでいる。(2) TRP11への変異導入や相互作用タンパク質の解析により、TRP11の作動の分子メカニズムを解明する:TRP11に変異を入れた発現コンストラクトを作成を終了し、変異TRP11を発現している細胞を作ることができた。その表現型の解析も進んでいる。相互作用をするタンパク質の同定も計画しているが、そのためのタグ付のタンパク質を発現させることができた。以上より当初計画通りと言える。(3) 前年度の成果により、せん断応力により脱繊毛反応が起こることを発見した。この発見をさらに深掘りするために、粘度計で定量的にせん断力を与え、反応の生物物理的特徴を明らかにすることができた。これは、本研究による新発見であり、計画以上の成果をあげていると言える。
本研究の3つの実験についてそれぞれ推進方策を述べる。(1) 電気生理学的手法により、TRP11が引き起こす電気生理学的現象を測定する:機械刺激を与えたときの受容器電流を測定することができた。しかし、そのあとに発生するはずの繊毛での活動電位を測定することができていない。これは用いているTRP11と、細胞壁がないcw2変異体との2重変異体が活動電位発生に異常があるらしいことが分かったので、この2重変異体をとりなおす。新たに得られた株で、解析を続ける。(2) TRP11への変異導入や相互作用タンパク質の解析により、TRP11の作動の分子メカニズムを解明する:TRP11遺伝子に変異を入れ、その遺伝子をTRP11ノックアウト株に発現させる系は完成している。変異箇所をさらに増やし、TRP11の分子機能の解明を進める。(3)せん断応力による脱繊毛反応:せん断応力への順応、粘性が高い溶液での脱繊毛、運動変異体での脱繊毛などの実験を通じて、せん断応力による脱繊毛の生理的特徴を解明する。
国際会議への出張旅費が高騰しているため、最終年度である次年度に国際会議で研究成果を発表できるようにした。
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Cytoskeleton
巻: - ページ: -
10.1002/cm.21840
iScience
巻: 26 ページ: 107926~107926
10.1016/j.isci.2023.107926