研究課題/領域番号 |
22K06229
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
泉 裕士 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 准教授 (10373268)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 上皮バリア / 細胞増殖 / ショウジョウバエ / 幹細胞 / 組織恒常性 / 腸管 / セプテートジャンクション / 細胞間結合 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ腸管の細胞間隙バリアとして機能する細胞間結合「スムースセプテートジャンクション(sSJ)」の解析により、1) 腸管には、sSJの破綻を検知して幹細胞の増殖を促進し、上皮細胞のリニューアルを促す仕組みが存在すること、2) sSJ破綻による幹細胞の増殖促進において、細胞極性の制御分子として知られるaPKCが関わること、を見出した。これらの知見をもとに、本研究はショウジョウバエ腸管のsSJ破綻による幹細胞の増殖促進メカニズムを解明することを目的としている。 2023年度は、上皮前駆細胞enteroblast (EB)のsSJ破綻に伴う幹細胞の増殖促進機構の解析を進め、進展があった。EBに特異的なGal4ドライバーであるSu(H)GBE-Gal4でsSJ構成分子MeshのRNAiを誘導し、Meshの発現抑制によるsSJの破綻を起こすと、腸管幹細胞の増殖が促進される。EBでのMesh発現抑制による幹細胞増殖促進のメカニズムを追求するため、Su(H)GBE-Gal4, UAS-mesh-RNAi系統を作成し、幹細胞増殖促進に関与している可能性のある候補分子のRNAi系統と掛け合わせ、幹細胞増殖への影響を調べた。その結果、aPKCのRNAi系統により幹細胞増殖抑制効果が認められた。また、Mesh発現抑制の腸管ではaPKCがアピカル膜に局在する細胞が増加していることを見出した。そこで、aPKCのEBでの挙動に注目した。aPKCは、正常の腸管では幹細胞と分化過程初期のEBでアピカル局在が見られ後期ではそれが見られなくなるが、Mesh発現抑制の腸管では分化過程後期のEBでもaPKCのアピカル局在が観察された。従って、Mesh発現抑制の腸管ではaPKCがEBのアピカル膜に残ってしまい、それが幹細胞増殖の引き金になっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上皮前駆細胞enteroblast (EB)のsSJ破綻に伴う幹細胞の増殖促進機構の解析は、当初計画していた2023年度の研究と並行して進めていたが、興味深い成果が出たので先行させることにした。これは、EBでのMesh発現抑制による幹細胞増殖促進のメカニズムを追求するために作成したSu(H)GBE-Gal4, UAS-mesh-RNAi系統が顕著な幹細胞増殖促進効果を示し、候補分子のRNAi系統を掛け合わせることによって、RNAi系統のいずれかに増殖抑制効果があった場合、それを容易にモニターすることができたからである。その結果、EBにおいてaPKCが、Mesh発現抑制による幹細胞増殖亢進に深く関わっていることが明らかになった。さらに、sSJ構成分子によるaPKCのEBでの細胞内局在の制御が幹細胞の増殖を制御する上で重要であることが分かった。今後の解析により、sSJとaPKCの関与する細胞極性との関連についての興味深い結果が得られると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
上皮前駆細胞enteroblast (EB)のsSJ破綻に伴う幹細胞の増殖促進におけるaPKCの役割について追求する。正常の腸管では、aPKCは幹細胞と分化初期過程のEBのアピカル膜に局在する。分化後期のEBでは、アピカル膜からaPKCが排除され、そこに入れ替わるようにsSJ構成分子が局在するようになる。EBでsSJの破綻をmeshRNAiによって引き起こすと、分化後期のEBでaPKCのアピカル局在が残ってしまうことから、sSJ構成分子はaPKCのアピカル膜からの排除に関わっていると考えられる。 sSJ構成分子(MeshなどsSJ膜タンパク質およびDlg/Lgl)がaPKCのアピカル膜からの排除に関与しているかを調べるため、Mesh及びDlg/Lgl欠失EBでaPKCの局在がアピカル膜に維持され続けるか解析する。また、EBでのDlg/Lgl強制発現により、分化過程初期のEBからアピカル膜のaPKCが排除されるか検討する。さらに、aPKC欠失EBでのsSJ構成分子の動態も解析し、aPKCによるsSJ構成分子の局在制御機構も存在するのか検討する。 sSJ破綻腸管では、分化後期のEBでaPKCのアピカル局在が維持されることが、腸管幹細胞増殖亢進の原因である可能性がある。それを検証するために、aPKCのアピカル膜局在を増強することが期待されるBaz/Par6の強制発現で、幹細胞増殖が亢進するか検討する。sSJ構成分子(MeshなどsSJ膜分子、LGL/Dlg)が協調してaPKCの排除に関わる可能性があるので、EBでmeshとLGL又はDlgのRNAiを同時に誘導し、幹細胞増殖が単独のRNAiよりさらに亢進するか、aPKCのアピカル膜局在が単独のRNAiより増強されるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)ショウジョウバエの維持、各種系統作成、購入と組織の蛍光免疫染色を中心に研究を進めた一方、分子生物、生化学実験を行う機会がほとんど無く、それらの関連試薬の購入が抑えられた。学会参加は、国内の学会のみであったため、旅費が抑えられた。 (使用計画)2024年度は当該科研費の最終年度に当たり、これまでに得られたデータに基づいた論文の作製に備え実験量が増加する予定である。それに伴いショウジョウバエ飼育関連の消耗品の購入量が増加する予定である。 特に、プラスチック製品はコンスタントに値上がりしており、ショウジョウバエ飼育チューブの購入費が大きく増加すると思われる。また、ショウジョウバエ系統のストックセンターからの購入も増加する予定である。国内学会について、4学会(うち2学会はシンポジウムの招待演者)の参加を予定しており、旅費も増加する予定である。
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