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2022 年度 実施状況報告書

脊索崩壊に着目した両生類変態における尾部退縮機構の解析

研究課題

研究課題/領域番号 22K06239
研究機関広島大学

研究代表者

中島 圭介  広島大学, 両生類研究センター, 助教 (60260311)

研究分担者 田澤 一朗  広島大学, 両生類研究センター, 助教 (10304388)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード脊索 / 硬骨 / 生体染色 / 受容体 / 変態 / 尾部退縮 / カルセイン / アリザリンレッド
研究実績の概要

変態現象は殆どの動物門において観察される、極めて普遍性の高い生存戦略である。無尾両生類の変態において、最も劇的な変化は尾部の退縮である。急激な尾部退縮における筋細胞死はアポトーシスの典型例であり、多くの研究が行われてきた。ところが、甲状腺ホルモン受容体βノックアウトカエルの尾では、筋細胞死が起きているにも関わらず、尾部の退縮が大幅に抑制された。そして、脊索の崩壊が顕著に抑制されていた。申請者らによるこの最新結果は、急激な尾部の退縮には脊索の崩壊が必須であることを強く示唆している。本研究は、「脊索の崩壊こそが急激な尾の退縮の本質的な要因である」という全く新しい発想に基づき、尾部退縮における脊索崩壊の役割と分子機構を明らかとする。本研究により得られた知見は、尾部の退縮機構の解明に向けたブレークスルーとなり得るだけでなく、甲状腺ホルモンの作用機序に新展開をもたらすことも期待できる。
マイクロCTによる脊索の直接観察が困難であったため、生きたまま硬骨を染色・観察する方法の開発を行なった。この結果を論文にまとめ、インパクトファクター3を超える Development, Growth & Differentiation 2022; 64 (7): 368-378に発表した。
また、変態期の脊索において強い発現上昇が観察される4遺伝子の発現を甲状腺ホルモン受容体βノックアウトカエルの脊索で測定したところ、olfm4以外の3遺伝子は発現量の減少が観察されなかった。このことは受容体αによる補償作用を示唆していると同時にolfm4遺伝子は受容体β特異的な制御を受けていることも示唆している。二つの甲状腺ホルモン受容体の機能的な差を明らかとするためにolfm4のプロモーター解析を進めており、途中経過をシンポジウムや学会において発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

脊索の崩壊は脊椎骨の形成と深い関わりがある。「研究実績の概要」において述べたように、マイクロCTによる脊索の直接観察が困難であったため、生きたまま硬骨を染色・観察する方法の開発を行なった。これまでに報告されていたアリザリンレッドとカルセインを用いて前変態期から変態終了後の小ガエルまでの染色条件を検討し、発生段階61以前と以後では染色性が大きく異なり、染色条件を変える必要があることを明らかとした。また、カルセインはエラなどを染色してしまい、バックグラウンドも高いことから、アリザリンレッドによる染色の方がカルセインによる染色よりもネッタイツメガエルの染色には適していることを明らかとした。これらの結果を論文にまとめ、Development, Growth & Differentiation 2022; 64 (7): 368-378に発表した。想定外の状況から派生的に生じた研究ではあるが、インパクトファクター3を超える査読付き原著論文として発表できたため、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
また、二つの甲状腺ホルモン受容体の機能的な差を明らかとするためにolfm4のプロモーター解析を進めている。プロモーター領域をGFPの上流にクローニングし、このコンストラクトを用いたトランスジェニックガエルを変態期まで育成し、GFPの発現量を指標としてプロモーター活性を評価している。転写開始点上流13kbpと1kbpのfirst intronを用いたところ、変態期に転写活性があることを示唆するデータを得ている。この結果を学会やシンポジウム等で発表している。このことからも研究はおおむね順調に進展していると評価する。

今後の研究の推進方策

本研究は「脊索崩壊は、いつ、どこで、どのように起こっているのかを明らかとすることを目的としている。そのため今後の研究は以下の方策で推進していく。
いつ:変態期の様々な発生段階の個体の形態観察を行い、尾の退縮と脊索崩壊のタイミングを明らかとする。脊索全体の形態だけではなく、脊索内の空胞化細胞の形態も観察する。組織切片の観察により、尾部退縮時の筋細胞死との関連なども明らかとする。脊索崩壊の重要性が示された場合は、受容体βノックアウト個体の観察も行い、尾部退縮における脊索崩壊の重要性を確認する。
どこで:意外なことに、「体幹部と尾部の脊索が同時に崩壊するのか」、または「尾部が先なのか」といった基本的なことすら不明である。体幹部の脊索は脊椎骨と強力に癒着しているために背腹方向に潰れると思われるが、尾部の脊索は頭尾軸に沿って縮む可能性も高い。組織観察による解析によりこれらの点も同時に明らかにする。もしも体幹部よりも早く尾部脊索が崩壊する場合は、これを制御する分子機構を明らかとするために、変態期の尾部脊索で空間的・時間的に特異的に発現量が上昇する4つの遺伝子(oflm4, scppa2, mmp9th, mmp13)の発現を、 in situ hybridization を用いて比較する。
どのように:上記4遺伝子のうち、mmp9-th と mmp13 は細胞外基質分解酵素であり、脊索退縮の実行遺伝子であると推察される。olfm4 は腸の幹細胞マーカーとしてよく知られ、scppa2 は、骨や歯の形成時にカルシウム沈着の足場となる scpp ファミリーの一員である。olfm4, scppa2 の既知の働きは、脊索の退縮と関連するとは考えにくいため、脊索崩壊を誘導する未知の機能を持っている可能性が考えられる。KO動物の解析により、これら二つの遺伝子の機能や制御機構を明らかとする。

次年度使用額が生じた理由

学会参加費を支払う予定だったが、学会当日に父が入院したために急遽参加を1日だけとした。このため、学会参加にかかった費用を科研費から支払わず、自費で払った。このため、予定よりも支出が少なくなった。次年度使用額は消耗品費として使う予定である。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (11件)

  • [国際共同研究] National Institute for Health(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      National Institute for Health
  • [雑誌論文] Osteological and histological comparison of the development of the interphalangeal intercalary skeletal element between hyloid and ranoid anurans2023

    • 著者名/発表者名
      Nakanishi Kensuke、Hasegawa Nao、Takeo Koichi、Nakajima Keisuke、Furuno Nobuaki、Tazawa Ichiro
    • 雑誌名

      Development, Growth & Differentiation

      巻: 65 ページ: 100~108

    • DOI

      10.1111/dgd.12844

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Intravital staining to detect mineralization in Xenopus tropicalis during and after metamorphosis2022

    • 著者名/発表者名
      Nakajima Keisuke、Yabumoto Souta、Tazawa Ichiro、Furuno Nobuaki
    • 雑誌名

      Development, Growth & Differentiation

      巻: 64 ページ: 368~378

    • DOI

      10.1111/dgd.12804

    • 査読あり
  • [学会発表] 二つの甲状腺ホルモン受容体における機能的な差はあるのか?2023

    • 著者名/発表者名
      中島 圭介, 藪本 壮太, 田澤 一朗, 古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] ツメガエル卵細胞の成熟と排卵、受精、および細胞死に関する研究2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤 賢一, 寺西雅, トクマコフ アレクサンデル, 中島 圭介
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] X. tropicalis を用いた卵母細胞の G2 期停止における Pkmyt1,Wee2 の機能解析2023

    • 著者名/発表者名
      西嶋 達郎, 中島 圭介, 田澤 一朗, 古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] アフリカツメガエルの細胞周期制御因子MYT1およびWEE1BのCRISPR/Cas9法を用いた機能解析2023

    • 著者名/発表者名
      林 太功磨, 田中 隆太郎, 吉田 美優, 中條 信成, 吉留 賢, 西嶋 達郎, 中島 圭介, 古野 伸明, 渡部 稔
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] 甲状腺ホルモン受容体によって制御される後肢の発達に関わる遺伝子の特定2023

    • 著者名/発表者名
      小川 修平, 田澤一朗, 中島 圭介, 古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] ネッタイツメガエルXenopus tropicalis におけるolfm4遺伝子の発現および機能解析2023

    • 著者名/発表者名
      藪本 壮太, 中島圭介, 田澤一朗, 古野伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] イベリアトゲイモリの仙肋骨の成長に腸骨は必要か2023

    • 著者名/発表者名
      吉村 雅子, 田澤 一朗, 中島 圭介, 古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] 樹上性カエルの指趾第一関節に見られる付加的骨格要素の比較発生学的研究2023

    • 著者名/発表者名
      中西健介,田澤 一朗,長谷川 真,竹尾 紘一,中島 圭介,古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] ネッタイツメガエルにおけるolfm4の機能解析およびサイロキシンの見落とされていた役割の発見2023

    • 著者名/発表者名
      藪本 壮太、中島 圭介、田澤 一朗、古野 伸明
    • 学会等名
      両生類研究センターバイオリソース棟落成記念シンポジウム
  • [学会発表] ネッタイツメガエルにおけるolfm4遺伝子の発現解析及びノックアウトによる機能解析2022

    • 著者名/発表者名
      藪本 壮太、中島 圭介、古野 伸明
    • 学会等名
      第93回日本動物学会
  • [学会発表] イベリアトゲイモリにおける異所への仙肋骨誘導の試み2022

    • 著者名/発表者名
      吉村 雅子、田澤 一朗、中島 圭介、古野 伸明
    • 学会等名
      第93回日本動物学会

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公開日: 2023-12-25  

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