研究課題/領域番号 |
22K06240
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
荻野 肇 広島大学, 両生類研究センター, 教授 (10273856)
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研究分担者 |
越智 陽城 山形大学, 医学部, 准教授 (00505787)
井川 武 広島大学, 両生類研究センター, 准教授 (00507197)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 発生 / 進化 / ゲノム重複 / エンハンサー / ツメガエル |
研究実績の概要 |
四足動物の祖先型ゲノムを持つネッタイツメガエルに対して、アフリカツメガエルはゲノム重複(RX)を経験しているため、ネッタイツメガエルの1つの遺伝子に対して2コピーのオーソログ(倍加オーソログ)を持つ場合がある。同様に真骨魚も、その祖先種が四足動物の祖先種と分岐した後でゲノム重複(R3)を経験しているため、ネッタイツメガエルの1つの遺伝子に対して倍加オーソログを持つ場合がある。代表者らは先行研究により、RXとR3のいずれの後でも進化的に2コピーで維持されている269遺伝子種を同定している。 本年度は、この269遺伝子種に関して、まずネッタイツメガエルの祖先型遺伝子の発現パターンと、それに対するアフリカツメガエルの倍加オーソログの発現パターン、およびゼブラフィッシュの倍加オーソログの発現パターンを比較し、両種で類似した発現パターンの進化的分化を示す、すなわち発現パターン分化の収斂進化を示す倍加オーソログ群を同定するための解析をおこなった。具体的には、脳、眼、心臓、腸、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、表皮、脾臓、胃、精巣等の組織を対象として、アフリカツメガエルの既存RNA-seqデータと、ネッタイツメガエルのRNA-seqデータから、両種の間でオーソログの発現パターンを比較するデータベースの作成を進めた。また、ゼブラフィッシュに関しても既存のRNA-seqデータを用いて、ツメガエルとの比較用データベースの作成を進めた。 更にこの解析で同定した収斂進化遺伝子の1つのsox9について比較ゲノム配列解析をおこない、種間で保存されている非コード配列(Conserved Non-coding Element, CNE)のクラスターをスーパーエンハンサーの候補領域としてネッタイツメガエルに同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトームの種間比較データベースはまだ作成途上であるが、その過程で上記のsox9など、ゲノム重複後に倍加オーソログが発現パターン分化の収斂進化を示す遺伝子群が見つかった。更に比較ゲノム解析により、それらのスーパーエンハンサーの候補領域がCNEクラスターとして同定されつつある。 また予備データ的な段階であるが、sox9のCNEそれぞれのエンハンサー活性をツメガエル胚におけるトランスジェニックレポーター解析によって調べたところ、いずれもが軟骨特異的な活性を示した。すなわちsox9は軟骨での発現を頑強に維持するために、機能的に冗長なエンハンサー群から構成されたスーパーエンハンサーを持つことを示すデータが得られた。このことは本研究の仮説、すなわち倍加遺伝子がゲノム重複前の祖先遺伝子から引き継いだ頑強なスーパーエンハンサーが、シス変異の蓄積による偽遺伝子化(シングルトン回帰)を抑制するとともに、倍加遺伝子の間での発現パターンの進化的分化をも制限し、収斂進化の拘束要因になるという考えを支持するものである。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べた通り、これまでにトランスクリプトームの種間比較解析とその過程で同定した収斂進化遺伝子群のシス解析を進めている。今後、発現解析に関しては、トランスクリプトームデータを補完するためにin situハイブリダイゼーション実験やqPCR実験をおこない、解析全体の解像度をより高いものにする予定である。これにより、本研究仮説の検証におけるゲノムレベルでの正確性と普遍性の向上に努める。 シス解析に関してはsox9のような、倍加オーソログが発現パターン分化の収斂進化を示す遺伝子の典型例に関して、トランスジェニック実験によるスーパーエンハンサーの同定を進めると共に、相同なスーパーエンハンサーを維持しながら異なる発現パターンを示す倍加遺伝子ペアにおいて、ゲノム重複後に組織特異的なサイレンサーが片方のコピーで獲得された可能性を探索する。また、sox9エンハンサー等をポジティブコントロールとして、活性化型エンハンサーのマークであるヒストン修飾H3K27acに対する ChIP-seqの条件検討をおこない、RXとR3のいずれの後でも進化的に2コピーで維持されている269遺伝子種に対してスーパーエンハンサーの網羅的同定を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コンピュータ解析によるトランスクリプトームデータベースの作成に注力したため、試薬等の消耗品を多く用いるin situハイブリダイゼーションやqPCR解析のようなウェット実験の実施機会が予定より少なくなった。その結果、次年度使用額が生じたが、それらは次年度に上記のウェット実験をおこない、トランスクリプトーム解析によって得た発現データを補完するために用いる予定である。
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