研究課題/領域番号 |
22K06250
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 三紀 (徳岡三紀) 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD) (90898727)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遺伝子発現調節 / 発生生物 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
本研究では、予定中内胚葉細胞を含む細胞に分布する転写抑制因子Prdm1-r, Hes.a, Hes.b, Ripplyが、中内胚葉組織の特殊化においてどのように機能しているかを明らかにすることを目的としている。これらの転写抑制因子のうち、ホヤ胚発生過程における機能が全く明らかになっていない因子はRipplyである。Ripplyは植物半球側の予定中内胚葉細胞と動物半球側の予定神経細胞において発現することから、中内胚葉組織、神経細胞の特殊化に関与している可能性が考えられる。 まず、Ripplyの発現がどのような因子によって調節されているかを調べた。Ripplyは32細胞期から胚性の発現を開始するので、Ripplyの発現に関与する因子は16細胞期から胚性の発現を開始する調節因子、もしくは母性から発現する調節因子が考えられた。いくつかの候補因子の機能阻害実験を行った結果、Fgf9/16/20がRipplyの発現を調節していることが明らかになった。 次に、胚発生過程におけるRipplyの役割を調べることを試みた。Ripplyの翻訳を阻害するためのモルフォリノ・オリゴ(MO)を用いて、中胚葉、内胚葉、神経細胞それぞれで発現するマーカー遺伝子の発現をホールマウントin situハイブリダイゼーションによって調べた。しかし、中胚葉、内胚葉、神経細胞のマーカー遺伝子の発現に明確な変化を観察することはできなかった。今回設計したMOに翻訳阻害効果がない可能性があるため、現在は、TALENまたはCRISPR-Cas9システムを用いた機能阻害実験を行い、Ripplyの機能を欠失させた胚における中内胚葉の特殊化に与える影響を確かめることを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年は天候不良、異常気象が重なり、京都府舞鶴市および神奈川県三崎市で養殖を行っているホヤの生育に大きな影響が出た。大量のホヤが死滅し、ホヤを用いた胚発生実験を行うことができない時期が7月下旬~10月上旬まで続いた。このことにより、実験の進捗に遅れが生じた。 ホヤが使用可能になってから、Ripplyの翻訳阻害実験を行ったが、現在設計しているMOでは胚発生における明確な影響が観察されなかった。翻訳阻害実験の結果の信頼性を上げるには複数のMOを設計し、それぞれのMOを用いたときの実験結果を得る必要がある。MOによる翻訳阻害を行うには、MOの一部が開始コドンの上流に結合している必要があり、一般的に5'-UTR(非翻訳領域)内にハイブリダイズするようにMOを設計することが多い。しかし、Ripply遺伝子は5'-UTRが非常に短く、複数のMOの設計は困難である。また、MOは設計する箇所によってスプライシング阻害にも働く。スプライシング阻害を行うためには、MOはエクソンとイントロンの境界領域にハイブリダイズするように設計する必要がある。しかし、Ripplyはイントロンを持たない遺伝子であるため、スプライシング阻害実験を行うことはできない。現在は、MOを用いた翻訳阻害以外の遺伝子機能阻害実験を行うための準備中である。具体的には、TALENまたはCRISPR-Cas9システムを用いた機能阻害実験を行うことを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、RipplyをTALENもしくはCRISPR-Cas9システムを用いた機能阻害実験を行う予定である。さらに、Ripply以外の転写抑制因子であるPrdm1-r, Hes.a, Hes.bについても機能阻害する実験を行い、動物半球側における表皮や神経系組織の特殊化に重要な役割を持つ転写調節因子の発現に与える影響について調べる。単独の因子の機能阻害実験で明確な結果が得られなかった場合は、複数の因子を同時に機能阻害する実験を行う。発現の影響を調べる因子については、胚前方の神経系組織(脳、付着突起)の特殊化に関わる転写因子Dlx.b、胚後方の神経系組織の特殊化に関わる転写因子Msx、表皮の特殊化に必要な転写因子Sox1/2/3およびTfap2-r.bを用いる予定である。 また、Prdm1-r, Hes.a, Hes.b, Ripplyを単独もしくは同時に機能阻害した胚と正常胚について、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析も並行して行い、発現量に変化が見られた遺伝子をピックアップし、これらの転写抑制因子が初期胚発生過程においてどのような遺伝子の転写に影響を与えているかを探ることを計画している。 本研究で得られる結果を合わせて、初期胚で発現する転写抑制因子が初期胚発生においてどのような機能を持つか、その全体像を明らかにしたいと考えている。所属研究室では、ホヤの胚発生過程における遺伝子発現調節ネットワークの全体像の解明をテーマの一つとしており、そこで得られた研究データと合わせることにより、発生運命決定における遺伝子発現調節ネットワークの全体像の解明に大きく近づくはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年は天候不良、異常気象が重なり、京都府舞鶴市および神奈川県三崎市で養殖を行っているホヤの生育に大きな影響が出た。大量のホヤが死滅し、ホヤを用いた胚発生実験を行うことができない時期が7月下旬~10月上旬まで続いた。このことにより実験の進捗に遅れが生じ、物品の購入も予定より少なくなったため、次年度使用額が生じることとなった。 今年度(令和5年度)は現時点ではホヤの生育状態は良好で、研究を予定通り進められることが期待される。今年度はin situハイブリダイゼーション、qPCR解析の他、トランスクリプトーム解析も行う計画で、それらの実験を行うための消耗品を購入する予定である。
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