研究課題/領域番号 |
22K06252
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 有紀 九州大学, 医学研究院, 准教授 (90508186)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 内皮-造血転換 / 細胞サイズ制御 / アクアポリン |
研究実績の概要 |
骨髄造血を担う造血幹細胞は、胚発生期に血管内皮細胞が分化転換することにより生み出される。これを「内皮-造血転換」と呼ぶ。内皮-造血転換の際、扁平・付着性の血管内皮細胞から球形・遊離性の造血幹細胞への急激な形態変化がおこる。さらにこの過程で細胞サイズが4分の1以下まで縮小する。細胞の縮小は、血流循環型の細胞拡散に必須のしくみと考えられるが、その分子メカニズムは全く不明である。申請者らが実施した造血性血管内皮細胞のRNA-seq解析から、水チャネルAQP1を高レベルで発現している細胞において、電解質イオンの輸送に関わる膜チャネルおよびトランスポーター遺伝子群が発現上昇することが判明している。これらの分子群が協調して浸透圧調整を行い、細胞サイズを制御する可能性が高い。本研究ではこれらの候補分子群のうち、カルシウム依存性クロライドチャネルANO1に着目し、以下の解析を進めた。本年度に実施した発現解析から、ウズラ胚(in vivo)においてANO1は造血性血管内皮細胞群の膜表面に局在すること、さらにin vitro内皮-造血転換モデルにおいても同様にANO1が造血性血管内皮細胞群の膜表面に局在することを確認した。また、CRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いてANO1遺伝子のノックアウト解析(電気穿孔法による組織特異的欠失変異導入)を実施した。その結果、ANO1をノックアウトした造血性血管内皮細胞では正常に球状化が起こらなかった。in vitro内皮-造血転換モデルを用いてANO1ノックアウト細胞のサイズを計測したところ、コントロール細胞と比較して細胞体積および表面積に関して顕著な変化を示さなかった。これらの結果から、ANO1は内皮-造血転換の際の細胞球状化に必須であるが、細胞サイズの制御には関わらない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vivoおよびin vitroモデルの両方を用いてANO1の発現解析、ノックアウト解析を実施することができた。当初の予測に反して細胞サイズ制御へのANO1の関与を示唆する結果は得られなかったが、内皮-造血転換現象に必須の分子である可能性は示唆されたので、研究の進捗としてはおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
内皮-造血転換中の細胞群において発現上昇するカルシウムチャネル TRPC3, TRPC6, TRPM8、カリウム-クロライド共輸送体 SLC12AについてもCRISPR/Cas9ゲノム編集法を利用したノックアウト解析を実施し、細胞球状化の有無、液胞形成の有無、細胞・液胞サイズ、造血幹細胞への転換の有無について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請額より大幅に減額されて交付されているため、もともと本研究計画を遂行するに十分な交付額ではない。そのような状況であるため、プラスチック製品などを研究に支障のない範囲で洗って使い回す、抗体をより希釈して使用する、グループ内で試薬を共有して無駄をなくすなどの工夫を日常的に行なっている。このため、物品費の支出を大きく抑えた。また、申請時に予定していた学会参加を取りやめたため、旅費を使用しなかった。このような「節約行動」によって生じた繰越経費は、次年度以降の研究に必要な物品購入に充てる予定である。
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