研究課題/領域番号 |
22K06254
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
村尾 直哉 宮崎大学, 医学部, 助教 (20773534)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 小胞体 / Derlin-1 / ニューロン新生 |
研究実績の概要 |
脳内の海馬領域に存在する神経幹細胞は生涯に渡り神経細胞を産生し、この現象は記憶 や本能行動などの様々な生命現象に重要な役割を果たす。これまでに、成体期の神経幹細胞が有する最大の特徴として、その大半が増殖をしない“休眠状態”にあることが明らかになっている。この神経幹細胞の休眠は、良い状態の幹細胞を脳内にストックし、一生涯を通した神経細胞の産生機構を維持するために必要不可欠な性質である。しかしながら、 その性質が一体どのように獲得・維持されるのかについては不明な点が多い。一方で、神経幹細胞の発達過程では、外部シグナルを受け取る細胞膜表面タンパク質の発現亢進や、脂質代謝経路の発達等が明らかになっている。これらの知見より、膜タンパク質の合成・輸送や、様々な細胞内代謝プロセスに関わる小胞体の働きが、成体神経幹細胞の休眠状態の獲得に重要であると考えられる。本研究では、小胞体タンパク質品質管理機構の成体神経幹細胞の休眠状態の獲得における役割を検証し、生涯の継続した神経細胞の産生に重要な新規分子メカニズムの提示を目指している。今年度は、ラット海馬由来の成体神経幹細胞を用いて、神経幹細胞の休眠状態への移行におけるDerlin-1の重要性を調べた。その結果、Derlin-1をノックダウンした神経幹細胞では神経幹細胞が活性化状態から休眠状態に戻りにくくなることが明らかになった。また、RNA-seq解析の結果から新たにDerlin-1と関連して休眠状態の制御に関わる可能性のある因子としてシグナル伝達兼転写活性化因子Stat5bを同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度に計画していた実験計画について、軽微な変更はありつつも同等以上の進行状況であるため。令和4年度は、「【1】神経幹細胞の休眠状態の獲得不全が成体ニューロン新生に与える影響の詳細解明」に関しての実験を中心に行った。その結果、Derlin-1欠損マウスの成体期において、休眠状態に比べて活性化状態の幹細胞の割合が顕著に増加していることが明らかになった。 また、ラットの成体海馬由来の培養神経幹細胞を用いてDerlin-1 をノックダウンし、 薬剤 (BMP4、ジアゼパム) による増殖性神経幹細胞の休眠状態への誘導を行ったところ、Derlin-1ノックダウン神経幹細胞は高い増殖レベルを保ったままであった。このin vitroの系を用いた実験により、Derlin-1欠損マウスの海馬における増殖性成体神経幹細胞の増加は、活性化した神経幹細胞が休眠状態に戻りにくくなっているためであることが示唆された。以上より、当初の目的であった解析を遂行し、結果を得ることができたため、本研究の現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、ほぼ予定していた計画に沿って研究を遂行したが、昨年度の結果より、今年度は少し計画を変更して研究を遂行する予定である。まず、成体神経幹細胞のRNA-seqによる網羅的な解析結果の再検討により、成体神経幹細胞の休眠状態の制御に関わる候補因子として、シグナル伝達兼転写活性化因子Stat5bを同定した。そのため今年度は、SREBP-1の解析と並行して新規候補因子Stat5bの解析も行う予定である。また当初の計画通り、成体神経幹細胞のプロテオーム解析等も実施することを計画している。さらに、同定した候補因子群や pathway に対する阻害剤 やウイルスを出生後マウスの脳内に投与し、神経幹細胞の休眠の獲得不全や記憶学習能力の低下が改善されるか (Derlin-1欠損マウス)、または休眠状態の獲得不全が誘導されるか (野生型マウス) を免疫組織化学や行動解析によりin vivoで検討する解析も当初の計画より予定を早めて行う予定である。これらにより、休眠状態の獲得に重要な因子や経路を同定する予定である。
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