研究課題/領域番号 |
22K06255
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新屋 みのり 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (00372946)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | メダカ / 種内多様性 / 頭蓋顔面形態 |
研究実績の概要 |
頭蓋顔面形態の個体差は、我々ヒトのみならず様々な生物種において観察される。この個体差の形成には遺伝要因と環境要因の両方が関わると考えられるが、その具体的な形成メカニズムは現在も不明である。本研究ではこの問題に対する糸口を見出すべく、小型魚類であるメダカを材料に、頭蓋顔面形態の個体差形成に関わる遺伝要因の同定を目指している。 これまでの解析により、頭蓋顔面形態の一つである形質L33は、近交系HdrR-II1系統のゲノムの6番染色体のみを別の近交系であるHNI-II由来に置換しただけで、表現型に差異が生じることがわかっている。この差異を作り出している多型および遺伝子を同定することを目的に、以下を実施した。 1つ目は、目的の多型・遺伝子が存在するゲノム領域の絞り込みである。これは、順遺伝学的解析によって進めた。具体的には、HdrR-II1系統の6番染色体の様々な領域をHNI-II由来に置換したコンジェニック系統においてL33の表現型を調査し、HdrR-II1系統のそれと比較した。表現型の有意差の有無とHNI-II由来のゲノムに置換されている領域との相関を調べたところ、6番染色体上の複数箇所(少なくとも3箇所)にて相関が検出された。さらに、相互作用を及ぼす多型・遺伝子の存在を示唆する結果も得られた。2つ目として、文献調査を実施した。他種の生物においても頭蓋顔面形態の種内多様性について統計遺伝学的解析が行われ、論文として報告されている。これらを参照し、頭蓋顔面形態との相関が示されている多型やゲノム領域を拾い挙げた。これまでに延べ73個をリスト化した。3つ目に、相関が明らかとなったゲノム領域の内、最も狭い領域(約250kbp)については内部に含まれる多型・遺伝子を調べた。その結果、1つの遺伝子が文献調査によるリストに挙げられている遺伝子の一種であることが分かった。ただし、この遺伝子内に同義置換の多型は存在したが、非同義置換の多型はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は今回の順遺伝学的解析の結果と文献調査結果を受け、本年度中に候補となる6番染色体上の多型・遺伝子を全て抽出して順位付けする予定であった。しかし順遺伝学的解析の結果、頭蓋顔面形態に影響を与える多型・遺伝子が6番染色体上に1つではなく、複数かつ相互作用することを想定しなくては説明できない結果が得られた。このため一部のゲノム領域はまだ対象領域が広く、膨大な数の多型や遺伝子が含まれている状態となってしまった。対象となる多型や遺伝子が多すぎたため、全てを抽出する作業は非現実的だと判断して進めず、方針・計画の変更を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3項目にて本研究を進める。 1.順遺伝学的解析により1Mbpより小さい領域にまで狭められたゲノム領域については、当該領域内に存在する遺伝子・多型の解析を開始する。なお、これら遺伝子の内、文献調査によるリストに入っていたものを優先的に進めてゆく。 2.順遺伝学的解析により1Mbp以上の大きな領域にて頭蓋顔面形態との相関が認められているゲノム領域については、更に領域を狭める。新規にコンジェニック系統を作成し、本年度行った順遺伝学的解析と同じ手法にて1Mbpより小さい領域にまで狭める。 3.新たな形質D23の個体差を担う多型・遺伝子同定の解析を開始させる。形質L33の個体差を担う6染色体上の多型・遺伝子が複数箇所かつ相互作用しているため、一つ一つの多型・遺伝子の形質への寄与が小さい可能性があり、寄与が小さすぎた場合には、検出力不足で特定の多型・遺伝子が同定できない事態も想像される。頭蓋顔面形態の個体差形成メカニズムに対する糸口を見つける、という本研究の大きな目的から考え、形質L33に執着する必要はなく、他に解析を進めやすい形質と染色体があるのであれば、そちらに着手することも対処の1つだと言える。そこで、もう一つの相関が認められている形質D23に対する15番染色体の順遺伝学的解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はDNA断片の大きさを高速かつハイスループットに解析する装置の購入を考えていたが、価格高騰のため本予算での購入を断念した。同等の古い装置は所有しているため、現時点では研究の遂行に問題は発生していない。なお、所有している古い装置は部品等が既になく修理不能であるため、なるべく早期に(故障発生の前に)他の予算による購入を検討している。また、1日2時間・週5日で勤務する実験補助員の雇用を想定していたが、対象となる人材が1日2時間・週3日での雇用を希望し、補助として必要な最低ラインは満たしていたため合意した。このため、人件費からも次年度使用が生じている。これら次年度使用分は、コンジェニック系統作成のための試薬・消耗品に利用する予定である。
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