研究課題/領域番号 |
22K06268
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 朋人 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 助教 (70512060)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | microRNA / クラミドモナス |
研究実績の概要 |
マイクロRNA(miRNA)が遺伝子発現を制御する仕組みは始原真核生物で成立し、進化の過程で様々な生命現象を制御する役割を獲得してきた。多細胞モデル動植物ではmiRNAの具体的な役割がいくつか明らかになっているが、単細胞生物におけるそれは明らかでない。本研究では、単細胞緑藻クラミドモナスをモデルにmiRNAの標的遺伝子を同定し、その遺伝子の機能からmiRNAが制御する生命現象を解明することを目的としている。 これまで、クラミドモナスmiRNAの制御標的遺伝子の探索の試みはいくつかあったが成功していない。相同性解析やmRNA-seqだけでなく、miRNAが結合したmRNA上のリボソーム数減少を想定したRibo-seq解析の報告等があるが、真にmiRNAが制御する遺伝子は同定できていない。また、miRNAの機能しない変異体の表現型解析を行っても、実験室内での培養環境では目に見える違いは見いだされず、表現型異常からmiRNAの機能を探ることも難しい。 そこで本研究では、miRNAと複合体を形成するエフェクタータンパク質アルゴノート3(AGO3)のnon-RI CLIP-seq (Cross-Linking ImmunoPrecipitation sequencing)法により、クラミドモナスmiRNAの標的遺伝子を探索した。220を超える遺伝子がmiRNAによって制御される候補として検出され、さらにウエスタンブロットによるタンパク質解析を11のタンパク質について行い、野生型株とAGO3変異株におけるタンパク質の蓄積量を比較した結果、少なくとも2つについては明確にAGO3変異株で蓄積量が上昇していることが確かめられた。この2つのタンパク質は光合成に関わるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通りAGO3タンパク質のnon-RI CLIP-seq解析を行い、多数のmiRNA標的遺伝子候補の検出に成功した。そのうちの2遺伝子についてはAGO3変異体においてタンパク質量の上昇が認められたため、miRNAによってその発現が抑制されている可能性が非常に高い遺伝子であることが確かめられた。 またこれらの遺伝子のタンパク質解析を進める中で、miRNAによる発現抑制の程度が細胞周期に依存している可能性が見いだされた。本研究でAGO3のnon-RI CLIP-seqに用いている細胞株は、AGO3欠損背景においてFLAGを融合した組換えAGO3遺伝子を発現させている遺伝子相補株である。この組み換えAGO3のプロモーターは発現量の高い光合成系遺伝子のプロモーターであるため、本来のAGO3の発現パターンを反映していない。即ち、組み換えAGO3と内在性AGO3の発現パターンや発現量が大きく異なるため、組み換えAGO3のnon-RI CLIP-seqでは、本来のmiRNA標的遺伝子の一部しか検出できない可能性が出てきた。 この問題を解決するため、従来型の組換えAGO3のnon-RI CLIP-seqを進めつつ、内在AGO3遺伝子配列内にCRISPR-Cas9によるゲノム編集によってFLAG配列をノックインした細胞株を作出した。
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今後の研究の推進方策 |
同調培養細胞を用いてnon-RI CLIP-seqを行い、細胞周期特異的、環境特異的に作用するmiRNAとその標的遺伝子の同定を行っていく。この際、令和4年度に単離した、内在AGO3にFLAGをノックインした細胞株も用いて解析を行う。同定した遺伝子のタンパク質に対する抗体を準備し、実際にタンパク質生産が抑制されていることを野生型株とAGO3変異株の比較解析によって確かめ、miRNAによって発現が抑制されている可能性が高い遺伝子を引き続き検出していく。 こうして選抜してきた標的遺伝子候補に対して作用するmiRNAの候補を、non-RI CLIP-seqによって検出したmiRNA配列情報と相同性解析によって見出す。見出したmiRNAの前駆体をコードするゲノム上の領域をゲノム編集によって破壊することで当該miRNAのみを欠失させた細胞株を作出し、その株において標的遺伝子のmiRNAによる抑制が解除されていることを確認し、「miRNAによって発現が抑制されている遺伝子」であることを確定させる研究を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
3万円足らずの次年度使用額が生じた理由は、研究のために購入したい試薬が次年度使用分として残った額より大きかったためであり、その試薬を購入するために翌年度分と合わせて使用する計画である。
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