研究課題
修飾mRNAによる細胞分化機構の理解を目的として研究を進めている.私達はシロイヌナズナIPOD1が修飾mRNAの読み取り (reader) タンパク質をコードしていることをこれまでに同定してきた.IPOD1欠損変異体では細胞の増殖期から成長分化期への切り替えが異常になり,栄養器官での核内倍加が昂進することを見いだしている.これらを足掛かりに修飾mRNAの新規機能探索を行った.今年度は修飾mRNAの輸送を担う核膜孔複合体の構成成分Nucleoporin50 (Nup50)の解析をおこなった.シロイヌナズナのゲノム中にはNup50aおよびNup50bの2遺伝子が存在していた,GFPを用いた発現解析により,Nup50aおよびNup50は栄養器官から生殖器官まで広く発現しており,他のnucleoporinとは異なり,主に核内に局在していることがわかった.特に,登熟中種子でNup50aとNup50bの発現量が高いことから,種子形成にこれらNucleoporinが関与することが示唆された.そこで,ゲノム編集を用いてnup50a nup50b二重変異体を作出し,表現型の詳細な解析をおこなった.その結果,nup50a nup50b二重変異体では種子の形状異常,稔性低下,種子寿命低下の表現型が観察された.一方で,栄養器官においては野生型と同様の成長を示した.比較トランスクリプトーム解析によりNup50aとNup50bは種子形成中の細胞壁関連遺伝子の発現制御を担っていることが分かった.この発現制御を通じて,Nup50は種皮形成に重要な役割をもつ可能性が示唆された.以上の結果からmRNA輸送を担う核膜孔複合体の種子における新しい役割を示すことができた (Oishi et al. 2024).
2: おおむね順調に進展している
本年度はmRNAの核内外輸送をになう核膜孔複合体の構成成分Nucleoporin50 (Nup50)の同定を行うことができた.ゲノム編集により作出した二重欠損変異体の解析を通じて,当初予想していなかった新しい生理機能を発見することができた.一方で,当初計画していたIPOD1自身の解析に費やす絶対的な時間が減少してしまった.次年度は,研究期間全体で立てた3つの研究計画の柱の残りの二つを遂行できるよう研究を進める.
これまでに同定できたIPOD1優性変異体を活用し,IPOD1の細胞内での機能解析を進める.またIPOD1様タンパク質 (IPOD1L)ファミリーの機能分担を明らかにしたい.1. 優性変異型IPOD1-GFPおよび野生型IPOD1-GFPを発現する植物を用いて,細胞内局在の変化及び相互作用するmRNAの探索を行う.前年度までに,IPOD1-GFPは熱ストレスにより細胞質内で速やかな相分離が引き起こされることを見いだしている.この相分離は可逆的で,温度にのみ依存しておきることが分かっている.この温度ストレス依存的な相分離に優性変異がどのように影響を及ぼすかを明らかにする.同時に,mRNAの読み取り機能への影響をRNA免疫沈降で検討する.2.シロイヌナズナのゲノム中には12種類のIPOD1様タンパク質 (IPOD1L)ファミリーが存在しているが,それらの機能分担については不明なままである.前年度までに単離した多重変異体を用いて詳細な表現型解析をおこなう.特に,細胞分化に注目して観察を行う.同時に,RNA-seqによるトランスクリプトーム解析をおこなって, IPOD1変異によるトランスクリプトーム変化(すでに取得済み)との比較を行うことで,IPOD1Lの機能分化に関する知見を得たい.
(理由)研究期間中に,当初想定していなかった因子 (Nucleoporin 50)を同定し,その因子に関する解析を優先的に行ったため,予定していた主要実験の一部が次年度に持ち越しとなった.(使用計画)当該年度中にこの因子の解析を終え,学術論文として発表することができたので,次年度では修正した研究計画に沿って実験を進める.
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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