研究課題/領域番号 |
22K06272
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
金澤 建彦 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 助教 (60802783)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オルガネラ / 膜交通 / 分泌 / 細胞壁 / 油体 / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
本課題では、苔類ゼニゴケの油体をモデルとし、分泌経路の再配向により形成されるオルガネラ・細胞構造の特徴およびその形成に関わる分子機構の解明を目指している。油体は、その内腔に細胞毒性の高い特化代謝産物を蓄積する苔類に特有のオルガネラであり、ゼニゴケでは分泌経路の再配向により形成され、凸凹の表面構造を持つ。分泌経路の転用により獲得された系統独自のオルガネラの力学的強度が、オルガネラ内腔に面した細胞壁様構造により付与されているとの着想のもと、これをオルガネラ壁、特に油体内腔に形成されるものを油体壁と命名し、その実体および構築機構、生理的意義の解明を進めている。 変異体スクリーニングにより、得られた油体形成異常変異体の原因遺伝子および機能解析、免疫抗体染色による油体壁構成成分の検出および同定を行うとともに、単離油体を用いた生化学的な成分分析も実施する。油体壁の合成酵素および分解酵素の過剰発現・機能欠損を作出し、油体内腔の化合物蓄積量および漏出量と油体壁頑健性を測定することで、油体壁の生理学的意義の解明を目指す。 2022年度は、本研究課題の着想に至ったMpSEC28に関する解析を進めた。油体の発生異常を指標とした変異体スクリーニングを実施し、油体が球形になる変異体の原因遺伝子としてMpSEC28を同定した。MpSEC28はゴルジ体から小胞体への逆行輸送を担うCOPI被覆複合体のサブユニットであり、他のCOPIサブユニットのノックダウン変異体においても同様の表現型が見られたことから、COPIが介在する分泌経路およびゴルジ体機能が正常な油体発生に重要であることが明らかになった。ここまでの成果について、国際誌に投稿・発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は分泌経路の変異体Mpsec28の解析を中心に進めた。変異体スクリーニングにより、油体の複雑な表面構造が形成できず、より単純で球形に近い構造を示す変異体を得た。この変異体の原因遺伝子はゴルジ体から小胞体への逆行輸送を担うCOPI被覆複合体のサブユニットMpSEC28であった。他のCOPIサブユニットのノックダウン変異体においても同様の表現型が見られたことから、COPIが介在する分泌経路、ゴルジ体機能が正常な油体発生に重要であることが明らかになった。また、Mpsec28変異体は、細胞間接着が低下し、葉状体の頑健性が低下した。この結果は、細胞接着や頑健性に関わる分子群が細胞外だけでなく油体へも同様に輸送されており、MpSEC28がこれらの分子、もしくはそれらの合成酵素の輸送に関与していることが示唆された。ここまでの成果は国際誌に投稿・発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、油体壁の分子実体・構成成分について、野生型とMpsec28を比較することで、特に油体壁頑健性に関わる分子実体を同定する。植物のゴルジ体は、ペクチンなど細胞壁多糖類の重要な合成の場になっていることから、油体壁構成成分の第一候補として挙げられる多糖類に注目し、多糖抗体染色によるオルガネラ壁成分の検出を行う。油体壁合成関連因子候補はMpsec28に導入し、油体壁合成におけるMpSEC28の役割についても検証を行う。また、油体単離法を確立し、この単離シングル油体を用いた多糖成分の生化学的分析を行う。単離油体の破壊実験により、油体の力学的特性の詳細を明らかにする。 変異体スクリーニングでは、油体形態異常を示す別の変異体も得られており、これについても同様の実験を行い、原因遺伝子と多糖類、油体形態の関係について解析を進めることで油体壁の分子実体を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、単離油体を用いた油体壁成分分析を実施する計画であったが、プロトプラスト化等の条件検討、変異体スクリーニングおよび原因遺伝子同定に時間を要したため、当該年度と次年度の一部実施計画を入れ替え、油体壁成分分析を次年度に実施する計画に変更した。
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