研究実績の概要 |
サーモスペルミンは植物と一部の細菌が持つポリアミンの一つで,種子植物では維管束木部分化の抑制に関わる。シロイヌナズナのサーモスペルミン欠損変異およびそのサプレッサー変異を用いた解析から,サーモスペルミンは木部分化の抑制に関わるSAC51ファミリー遺伝子のmRNA翻訳促進に働くことを突き止めたが,分子機構の詳細は明らかでない。そこで外的なサーモスペルミンが木部分化を抑え,成長を阻害する効果を指標にシロイヌナズナのサーモスペルミン非感受性変異株を探索,単離し,それらの原因遺伝子を同定した結果,いずれもRNA修飾に関わる酵素に異常が見つかった。本研究では,これらRNA修飾酵素の機能を手がかりにmRNA翻訳におけるサーモスペルミンの作用機構の解析をすすめるとともに,作用標的であるSAC51ファミリーの機能解析から,サーモスペルミンがmRNA翻訳の促進を介して木部分化を抑える仕組みの解明を目指す。 3年計画の研究として,(a) サーモスペルミン非感受性変異株itsの各原因遺伝子の確定とその機能解析,(b) サーモスペルミンの作用標的であるSAC51ファミリーの個々の遺伝子の発現制御と機能の解析を並行してすすめた。 4つの非感受性変異its1, 3, 7, 11の原因遺伝子は,染色体マッピングとゲノム解析からRNAメチル化酵素,スプライソソーム解離因子,シュードウリジン化酵素,RNA結合タンパクをそれぞれコードしていると予想され,its1はT-DNA挿入変異を入手してサーモスペルミン非感受性を確認した。初年度はits7の推定原因遺伝子PHIP1のゲノム編集による変異株を作出し,サーモスペルミン非感受性が確かめられたことから,its7の原因遺伝子がPHIP1であることを確定した。また,サーモスペルミンの標的SAC51ファミリーの1つであるSACL1遺伝子のゲノム編集株作出にも成功した。
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