研究課題/領域番号 |
22K06282
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂本 敦 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (60270477)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物ホルモン / ストレス / 小胞体 / β-グルコシダーゼ / アポプラスト |
研究実績の概要 |
アブシシン酸(ABA)は乾燥などの環境変動への適応を制御し,陸上植物には必須の植物ホルモンである。本研究は,環境変動に応答したABA生成機構,特に生理的に不活性なABA配糖体の加水分解による迅速なABA生成機構の解明を目指している。この反応を担うシロイヌナズナBG1は小胞体(ER)ボディに局在するため,液胞やアポプラストに貯蔵されたABA配糖体からどのような機構でABAを生成するのかが長年の謎である。これまでの結果から,乾燥に応答したERボディの動態変化と連動した膜交通系を介して,BG1 の一部がアポプラストに移行すると考えられる。本年度は,(1)この移行機構におけるERボディの役割解明と,(2)新規合成に先行する配糖体加水分解によるABA生成の生理的意義づけを行うために,以下の2つの研究項目を実施した。 (1)BG1-RFP融合蛋白質を発現し,かつ構成的なERボディ形成能を欠損する変異株を対象に,ストレス条件下におけるBG1-RFPの挙動を調査した。その結果,遺伝的背景が野生株の場合に見られた融合タンパク質のアポプラスト移行が変異株では殆ど観察されず,乾燥に応答したBG1のアポプラスト移行にはそのERボディ局在が前提となることが示唆された。 (2)BG1が触媒する迅速なABA生成がストレスに対する初期応答に重要な役割を担う可能性を検証するために,乾燥ショックに応答したトランスクリプトーム動態に与えるBG1遺伝子破壊の影響を調査した。その結果,野生型ではストレス処理で300以上の遺伝子が発現上昇したが,そのうち約3分の1はBG1変異によりストレス条件下での発現が有意に低下した。これらの遺伝子には,ABA信号伝達やストレス早期応答に関わるもの,また核局在タンパク質をコードするものが含まれていたことから,BG1機能はストレス初期応答過程の遺伝子発現調節に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスに応答したBG1の移行機構やその触媒作用による迅速なABA生成の植物生理学的意義に関して所期の結果が得られつつある。また,概要には記載していないが,免疫電子顕微鏡や他の膜交通系の変異株を用いた解析で,次年度に一定の成果を見込める予備的な結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
ERボディからアポプラストへのBG1移行機構については,免疫電顕を用いた局在変化の確証を行うとともに,膜交通系突然変異株を用いたメカニズム解明を進める。BG1が担うABA迅速生成の植物生理学的意義については,BG1に正に制御されるストレス初期応答遺伝子のさらなる同定と,プロモーターの機能解析等によるその転写活性化機構に関する解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として委託分析(RNAシークエンス解析)の実費が見込みよりも低額であったため差額が生じた(予算額の1割程度)。未使用額は次年度の試薬若しくは消耗品の購入に充てる予定である。
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